一章 波乱の舞踏会 5
次第に私は言い淀んでいた。頭を悩ませて言葉を探していると、ー
「シヤリー。」
その途中で今度はシヤリーを呼ぶ声がする。
彼女が振り返ると驚いて、声をあげていた。
「ヴィシュー様?!」
「私と一曲、踊りませんか?」
と、ヴィシュー殿下はシヤリー目の前まで来ると、恭しく一礼しながら手を差し出してきた。
すぐにシヤリーは微笑みを浮かべながら頷き、相手の手を取っていた。なんとなく頬も赤くなっているようだった。
そのまま二人は、社交ダンスの舞台の方へと歩いていく。
シヤリーは去り際に、此方に振り向きながら、
「カレンナ。…私、…今、とっても幸せよ。」
と言い、とびっきりの笑顔を見せてきたのだった。
ゆっくりと二人は踊りの輪の中へと加わっていった。
私は黙ったまま見送ると、やや目を反らしてしまう。
ふと同時に自らの容姿を再確認しだした。
まず親譲りの赤い髪と中性的な男顔で、背丈は高くて若干だが肩幅が広い。歳は17歳で、多少は胸も膨らんでいる。だが仕草や動作が荒っぽくて落ち着きがない。
殆ど親や親友以外からは、女扱いをされた事がなかった。
そんな事実が心の中で渦巻く。次第に二つの単語が頭の中で過り、思考を支配する様に繰り返しながら思い返す。
結婚、ーー好き合う男女が生涯を共にする。
恋愛、ーー男女が互いに好き合い、支え合う事である。
「…私が結婚なんて、出来るのだろうか。…」
そのまま私は独り言を呟き、幼い頃の思い出を振り返りながら、物思いに耽っていく。
自分も子供の頃は、シヤリーと同じ考えだった。年相応の少女らしく、将来の相手を望んでいた事もあった。
だが何時しか、恋愛や結婚の考えに至る事もなくなっていた。
今思うと、原因はハッキリしているが今は深く考えない様にしたのだった。