3章 ライルの謎 2
その部屋に入ると、薬臭い匂いがしてきた。
此処は、城内の医務室である。天井、壁、床に至るまで、全てが白色で統一されており、シミや埃に汚れが一切ない程に清潔に保たれていた。
その右側の壁際には、木製の棚が置かれており、様々な薬の瓶が陳列されている。
また左側の壁際には、複数のベッドが並んでいる。出入り口側から等間隔で設置されており、最終的に奥の壁側まで続いている。
しかし室内は閑散としていて、怪我人や病人は殆どいない。
しかし、一番奥のベッドで毛布が蠢いていた。誰かが蹲って、横になっているようである。次第に毛布が捲れていくと、ー
「あら、カレンナじゃないの?」
と、中年の男性が瞼を指で擦りながら、ゆっくりと姿を現した。ついでに此方へと、渋く低い声で呼び掛けてくる。
紫色の派手な髪と痩けた頬が特徴的な人である。皺だらけの白衣を着ており、動きが妙に艶かしい。まるで女の様な仕草をしていた。
「…え?!」
と、ライルは目の前の光景を見て、驚きながら思わず声を漏らしていた。
そんな様子を私は横目に見つつ手近なベッドに向かうと、ライルを座る様に促した。さらに続けて木製の棚へ向かい、薬の瓶を勝手に拝借して戻ると、すぐに彼の顔に手で触れながら薬を塗っていく。
対してライルは抵抗しない。大人しく座りながら治療を受けてくれている。やや顔に熱を帯びており、やたらと視線を反らしている。
「何よ、また騎士団の稽古中に。若い男に手を出したの?」
と中年の男が言う声が聞こえてきた。若干だが茶化してきているようだ。
「人聞きの悪い言い方で、言わないでよ。…マカ先生!…」
と私は間髪入れずに否定しつつ、相手の名前を呼びながら、後ろを振り向いた。