二章 アルジェンとの出会い。 10
「あ、アンタねぇ!!」
さすがに私も我慢ならず、鋭い目付きを皇太子を睨みつけていた。段々と怒りが込み上げており、わなわなと強く拳を握りしめていた。ただし手が出そうになるのだけは、ぐっと堪えていた。
時を同じくして、ライルが隣にまでやってくると、徐に此方の手を掴んで制止してきた。
「!!?」
あまりの突然の事に、私も驚いてしまう。思わず彼の方に振り向いてしまい、手を力ずくで振りほどいていた。次第に状況を理解してくると、顔の全体が熱くなる感覚に陥っていた。
しかし、それがいけなかった。
「ふん。…」
とヴィシュー殿下は一瞬の隙に、大股で乱暴に歩きだし、此方の真横を堂々と通り過ぎていく。さらに去り際で、
「…貴様が何と言おうと、関係ない!…私にとって何よりも優先されるのは、ナンリーだ。…それと貴様を呼んだのは小言を聞く為ではない。余計な事をするなと釘を刺す為だ。…いいか?……これは王族、時期国王になる俺からの命令だ。…貴様がこれから何かして、もしナンリーに何かあったら、ただじゃおかないからな。」
とだけ言い残して、さっさと部屋から出ていき、廊下の奥へと早足で歩いていった、
瞬く間に姿を消してしまい、もう追い付くのも、ままならない。
私は呆然としながら、立ち尽くしていた。
隣ではライルが未だに、おどおどしながら狼狽えている。
私達は部屋に残される。
再び辺りには、微妙に気まずい空気が漂うのだった。
「あ、あの。…すいません、余計な事して。…でも、止めなきゃって思って。」
やや遅れてライルの声が聞こえてきた。
彼は動揺しながらも、此方に喋りかけてくる。
「…あのね。」
と私は呟くと、すぐに隣に顔を向ける。すぐにでも文句でも言おうとした。だがライルの姿を見た瞬間に、思わず息をのんだ。
「…貴女を巻き込んでしまって、…本当に、…申し訳、ありません。…でも、…」
ライルは俯きながらも、必死に謝罪の言葉を口にする。表情は判らないけど冷静に振る舞おうと取り繕っていた。また微かに肩が震えており、怯えきっている。
まるで力ない小動物を連想させるようだった。
もはや私は呆れて溜め息を吐いてしまい、何も言えなくなる。怒りの感情すら、何処かに霧散してしまうのだった。