二章 アルジェンとの出会い。9
「そうだ!…ナンリーだ!…」
そんな様子にも関わらず、今度はヴィシュー殿下が声を荒げながら椅子から立ち上がると、捲し立てる様に喋りだした。
「この世界で一番に可愛い、可愛い。…俺のナンリーが何処ぞの何者かの陰謀で、汚されるのだぞ!…我慢なんて出来るか!」
まるで子供が癇癪を起こして、八つ当たりをしているみたいだ。一国の皇太子らしからぬ振る舞いである。
私は目の前の光景を目撃して、少し呆れていた。
その後も全く治まる気配がない。
「この!…ドジ、間抜け!!…役立たず!…お前達のせいだ!!…もし俺のナンリーに何かある様な結末になったら、お前達なんか死刑にしてやるからな!!…それが嫌なら、命をかけて守れ!!…何があっても、他の奴らが怪我しようがどうなってもいいから、ナンリーだけは守りきれ!!」
とヴィシュー殿下は一方的に、此方を罵る言葉を浴びせながら命令口調で喋っていた。
ふと私はヴィシュー殿下の発言が気になり、思った事を聞き返していた。
「…あの、ヴィシュー殿下?…失礼ながら少し発言させて頂きます。…他がどうなってもいいからと言っていますけど、…まさかシヤリーも含まれていませんよね?…仮にも貴方の婚約者ですよ。」
「…知らん!…あんな女、怪我しようが死んでも、どうなろうと知った事ではない!…とるに足らん存在だ!」
「…なんですって!!」
「…もともと好きでもなんでもない。…昔に俺の親父と、向こうの家族が勝手に決めた事だけだ。…なのに餓鬼の頃から、あの女は付きまとってきて迷惑していたからな。…居なくなってくれるなら、よっぽど良い。」
するとヴィシュー殿下は怒りの形相のまま、再び信じられない発言をしてきた。
彼の目は本気で、心の底から本心を言っているのは、間違いなさそうである。