二章 アルジェンとの出会い。 7
「えっと、…」
私は目の前の状況に唖然としている。訳が判らずに困惑し、彼等を交互に見回していた。
ふとライルの赤い両目と、視線が合った気がした。
彼は此方を向くと、若干だが身体が強張ったようである。
「ふん。…よりにもよって、この女も時戻りの力で、未来の意識を持って帰ってきたのだろうが。…全く、余計な事をしてくれたもんだ。」
とヴィシュー殿下の文句も、聞こえてくる。
「時戻り?…」と、私は思わず、聞き返していた。馴染みのない単語に、頭の中で引っ掛かっている。
するとヴィシュー殿下が鋭い目付きで睨み付けライルを睨み付けながら、指で指示を送っている。
それを受けてライルは、後退りして躊躇している。しかし、壁際の方へと差し掛かると、
「…し、仕方ないか。」
と諦めた様に呟く。続けて此方へと向き直ると、片手の掌で顔を隠しつつ、前髪を掻きあげる仕草をした。
その直後に、私は目の前のライルの姿を見たら、驚いて声を漏らした。
「?!…アルジェン!!!」
ほんの僅かの間に、彼の姿が変貌していた。
まず顔にペルソナマスクを装着しており、さらに身につけた衣服も変わっている。
見覚えのある姿だった。
間違いなく目の前には、舞踏会で見た怪しい人物ーー怪盗アルジェンが真正面に立っていた。
私は反射的に、腰に携えた鞘から剣を引き抜こうと手をかける。だがすぐに手が空振りしてしまう。やや遅れて視線を向けて確認すれば武器がない事に気がつく。
先程まであった筈なのに、何処にもなかった。
「…いきなりの事で、申し訳ありません。…ですが落ち着いて話を聞いてください。」
ほぼ同時にアルジェンが宥めてくる。さらには空の手を目の前に差し出してきて、続け様に指を鳴らすと、一瞬のうちに掌に私の剣が出現したのだった。
「……!?…」
もはや私は驚き過ぎて、目を見開いたまま声が出なくなる。呆然としながら、成り行きを見守るしかなかった。