二章 アルジェンとの出会い。 5
「…すいません、…スカーレット卿ですか?」
すると、背後から誰かが呼び掛けてくる声が聞こえてきた。女の様な高い声である。
私達は振り返ると、揃って目を見開く程に驚いてしまう。
「…いきなり話しかけて、申し訳ありません。」
そこには、一人の年若い執事がいた。此方に向かって、ゆっくりと歩いて側に寄ってきた。
彼は十代半ば。凄く目を引く程に美しい容姿をしていた。銀色の短い髪と赤色の両目が特徴的で、肌も陶磁器の如く白かった。ピシッとした執事服からは、身体全体の線が露となり、まるで女の様に腰や手足が華奢である。
「あ、あぁ。…私がスカーレットだ。…えっと何かな?…それに君は誰だい?」
と父が真っ先に我に返ると、即座に返事をしていた。ただ目の前の執事の姿に戸惑いを露にする。
「…初めまして、私はライルと申します。…ヴィシュー殿下の執事見習いをしております。…普段は城の奥から出てこないので、お会いしませんから存じ上げないのも無理はありません。」
対して若い執事、ーーライルは此方の様子を気にも止めずに、
「…実は、御嬢様のカレンナ様に御用がありまして。…ヴィシュー殿下から舞踏会前にシヤリー嬢の事を聞きたいと言われており、御部屋でお会いしたいと言伝てを賜りました。なので申し訳ないですけど、ご同行をお願いしに来ました。」
と、淡々と要件を喋り続けている。最後には此方に視線を向けてきていた。
私は目が合うと同時に、「えぇ、わかったわ。」と、なんとか返事をして、平静を装う様に努める。
「…伝えてくれて、ありがとう。…なら急がねば、ならないな。…」
その後に父も御礼を伝えながら、踵を返して早足で颯爽と動き出す。
さらにライルも同じ速度で歩きだし、前に出ていくと、先導する様に先を進んでいく。
私も急いで後を追いかけだしていき、無心で足を動かし続けたのだった。