一章 波乱の舞踏会 12
コツ、コツ。…
その時、廊下の方から誰かの足音がしてきた。
ゆっくりと近づいてきて、部屋の中に入ってきた気配を感じる。
「な?!」
と、アルジェンが真っ先に驚いており、尋常ではない様子で大きな声をあげる。
もはや怪盗にあるまじき行為だ。
あまりの事に私も思わず背後へと顔を向ける。
そこには父が抜いた剣を携えて立っていた。
どうも様子が変だった。
父は異様な表情をしていた。まず虚ろな両目をして此方を見ており、「邪魔、邪魔、邪魔、邪魔、邪魔。…」と戯言の様に呟きながら、手にした刀を振り上げている。まるで先程のナンリー姫と同じ様な状態である。
私は訳が解らずに、父を凝視したまま動けなくなる。思考も上手く回らない。
その直後に、父は私を目掛けて刀を振り下ろしてきた。
「とうさま、…っ!?」
と私は悲鳴をあげて身構える。
だが目の前にアルジェンが現れる。父との間に割って入り、剣の刀身をまともに身体に受けてしまった。
まるで此方の身代わりになったようである。
そのまま彼は床に仰向け倒れて動かなくなる。さらに身体には大きな傷が開き、大量出血してしまう。
瞬く間に床一面に赤く染みが広がっていた。
「…アンタ!…何で?!」
と私は側に行って寄り添うと、声をかけながら両手で傷口を抑えつける。急いで止血を試みたが上手くいかない。
次第に掌にもべっとりとアルジェンの血が付いてしまう。
「邪魔、邪魔、邪魔、…あたしの邪魔、」
一方で、父は再び不気味な台詞を口走りながら、部屋の奥へと向かう。ようやくして床で横たわるナンリー姫の側に辿り着くと、また刀を振り上げだした。