一章 波乱の舞踏会 11
ふと目の前の廊下には、奥へと向かって走る人影がいる。
人を抱えているようだった。
アルジェンだ。と私は確信した。急いで後を追いかけていく。
幸いにも周りに他の人おらず、ぐんぐんと速度を上げながら距離を詰めていく。
人影も気がついたようだ。一瞬だけ背後を振り返っていた。
続けざまに、すぐ近くの部屋の中へと咄嗟に逃げ込んだ。
ゆっくりと扉が閉まっていく。
間一髪で、私は間に合った。壁と扉の隙間に掌を滑り込ませると、力一杯に扉を押して部屋の中に突入した。
「…っ!!」
と部屋の奥の壁際にいた人影は、此方に対面する様に振り返ってくる。
私は目を凝らしながら、まじまじと確認する。
予想通りの人がいた。
やはり相手はアルジェンである。口元を苦々しそうにしていた。片手で姫様を大事そうに抱き抱えながら、反対の手で頻りに壁の彼方此方を触り、何かを探しているようだった。さらには、
「…どうして、…お前が此処に?」
と問いかけてくる。
その声は、思いの外に女性の様に高かった。
対して私は相手の質問には答えない。代わりに鋭い目付きで睨めつけながら、威圧的な態度で喋りかけて説得を試みる。
「もう逃げられないわ。…大人しく捕まりなさい。」
「…くそっ。…」
しかし、アルジェンは対面した状態で微動だにせずに、悪態をつきながら此方を睨み付けてくる。全く降参する気はないようだった。
「…仕方ないわね。」
と私も小さく呟きながら、相手から目を離さずに隙を伺う。勢い良く飛び出して組伏れる様に身構えていた。