4話 結び
ヘリが店を出て行くのを見て、驚いて何もできなかった。そんなに悪いことをしただろうか?
しかも僕のカメラで撮ったわけでもなかった。前回は僕のカメラで撮って叱られたから、いつもヨヌの携帯で撮ってあげた。ヘリの直接的な物言いに対しては従っていたつもりだ。
普段の撮影会はもちろん、撮影に行く時もほとんど一人で回っていた。ヨヌは日本語ができたから、他の友達より早く親しくなった。しかし誤解を招くような状況を作ったことは一度もなかった。投稿が上がらなければこんなことにもならなかったのに.......
* * *
翌日、僕たちが一緒に受ける「写真の理解」の講義があった。普段より少し早く到着して、どんな様子で現れるのか待った。僕たちはいつも前から3列目に一緒に座っていたが、変わらずその席に座った。
授業が始まる直前にようやくヘリが講義室に入ってきた。僕が座っている3列目をそのまま通り過ぎて、一番後ろの席に向かった。授業を始めた最初の週を除いて初めてのことだった。
うつむいていたけど、目が腫れているのがわかった。昨日たくさん泣いたんだ。言葉は強く言っても全て本心ではなかっただろうという考えが、ヘリの目を見て浮かんだ。授業が終わったら話をしなければと思った。
しかしヘリは授業に最も遅く現れたのとは反対に、終わるとすぐに最初に消えてしまった。振り返ってみると既にいなくなっていて、引き止める余裕もなかった。たぶん僕に泣いた姿を見られたくなかったのかもしれない。あるいは本当に終わりだと思っているのか。後者でないことを願った。
でも今すぐ話すことになったら、何を言い出せばいいのかわからなかった。謝罪?悔しいという言い訳?どんな言葉がヘリの心を動かせるのかわからなかったし、僕がどんな言葉を言いたいのかもわからない。正解が分からなかった。
* * *
毎週水曜日に開かれる写真勉強会に参加した。黙々と撮影技法を学び、部員たちと形式的な挨拶を交わしてから家に帰る。これが僕の日課だ。しかし今日は別にすることがあった。
「ヨヌ、忙しい?」
「ううん、そうでもないけど。なに?」
「ちょっと聞きたいことがあって。少し時間ある?」
「うん。」
ヨヌに声をかけた理由は、親しい韓国人の女友達がいなかったからだ。悩み相談をヨヌにしたという事実を知ったら、ヘリが激怒するかもしれない。でも僕にはヨヌのような韓国人女性のアドバイスが切実に必要だった。
ヨヌに今までの些細な喧嘩と現在の状態を説明し、何が問題か聞いた。
「うーん、まず響に韓国人の彼女がいるという事実に最初驚いた。全然表に出さないから知らなかったよ。」
「話す必要性を感じなくて......。」
「でも基本的に韓国の女性のほとんどは彼氏を自慢したがるの。そうじゃない人もいるだろうけど、響の彼女さんはそうみたいね?」
「うん、そうみたい。」
「そこから来る寂しさが大きかったと思う。カップルのプロフィール写真もしたいし、一日中連絡も取りたかったはずなのに、響が嫌がるから合わせてくれたように見えるけど?」
「あ.......。」
ハンマーで頭を強く殴られたようだった。今まで僕だけが合わせていると思っていたのに、そうではなかったなんて。些細なことだと思っていた部分も寂しく思える部分だったことに気づいた。
「もちろん響も間違ってはいないよ。でも仲直りしたいなら、相手を理解するべきだと思う。」
「でも僕を見るたびに避けるのに、どうすればいい?」
「うーん.......サプライズを準備するとか?」
「え?」
「『僕はこんなに変わりました』を体全体で表現するの。普段響は感情表現が少ないから、すごく感動すると思うけど?」
想像もしなかった提案だった。イベントなんて.......うまくできる自信がなかった。しかし挑戦してみることにした。
「それから写真のお願いはごめんなさい。私は本当に響が写真を上手に撮るからお願いしたの。本当だよ。」
なんか二人の喧嘩に一役買ってしまったみたいで申し訳ないね。ヨヌは心から謝ってくれた。大丈夫だと手を振りながらコーヒー代を計算した。こんなに熱心に相談を手伝ってくれたことを見ても、ヘリが誤解するような状況や気持ちは全くないことがわかった。
「それと心配しないで。私も恋人がいるから。」
「本当に?知らなかった。」
「......彼女。」
秘密よ。ヨヌはそっと笑った。
* * *
時が流れ、漂っていた春の気配が消え、蒸し暑い夏が訪れ、「写真の理解」も終講を迎えた。期末試験を終えれば、しばらくヘリに会えないという点が残念だった。週に一度。それも何の会話もできず、遠くから眺めるだけのことは非常に辛かった。でもサプライズを行うには、もう少し時間を待たなければならなかった。
ヘリは毎週金曜日に家の近くでカフェのアルバイトをしている。退勤時間に合わせて家の前で待つ計画だったため、一週間前に事前に訪ねてみた。サプライズを準備しながら、ヘリを家まで送ったことは付き合い始めた日にたった一度だけだという事実に気づいた。学校の近くに住んでいるという理由で、毎回僕の一人暮らしの部屋で別れたけど、この遠い距離を一人で往復させたという罪悪感を感じた。今日のサプライズを気に入ってくれたらいいけど、必要ないと言われても仕方ないと思った。
午後9時。ヘリが退勤する時間だ。もしかと思って既に1時間前からヘリの家の前に立って待っている。10分ほど経つと遠くにヘリが見えて、震える心を落ち着かせた。
大きな花束とケーキを持って立っている僕を発見したヘリは、その場にピタリと止まってしまった。信じられないというように一歩一歩ゆっくりと僕に近づいてきた。
「これ何......?」
「今日僕たち100日だよ。」
「.......」
「『今日から1日目』で数えた100日」
そう言いながら赤いバラの花束をヘリに大きく抱かせた。全く予想していなかったのか、僕は落ち着いて準備していた言葉を続けた。
「考えてみたら、一度も『好き』って言ったことがなかったよね。ヘリはたくさん言ってくれたのに。僕は本当に悪い彼氏だった。」
「.......」
「好きだよ、ヘリ。ヘリと過ごすのが一番楽しくて好き。写真サークルはもう行かない。」
ヘリは笑っているような泣いているような表情だった。慎重に言葉を選んでいるようだった。
「私も.......この間たくさん考えてみたんだけど。」
「うん。」
「あまりにも私のやり方だけを強要していた。日本には迷惑文化があるのにそれも知らないで.......日本人の彼氏と付き合いながら日本語一つもできないで.......たくさん反省した。」
「そうなんだ。」
「だから最近日本語の勉強中なの。」
照れくさそうにニコニコ笑った。別れている間に心が取り返しのつかないほど変わってしまったらどうしようと心配したけど、むしろ努力していた気持ちが嬉しかった。実は反省すべきなのはヘリではなく僕だった。
「僕もたくさん努力するよ。ヘリがしたいことなら何でも。」
「本当に?」
「うん。」
「とりあえず家に入ろう。暑すぎる。」
「いいの?」
ヘリは両親と一緒に暮らしていた。ちょうど両親は外出中で、部屋だけにいれば大丈夫だと言った。本来なら花束だけ渡して帰るつもりだったけど、一緒にケーキも切ることにした。
「わぁ、レタリングケーキだったんだ!」
「うん。直接デザイン入れて注文したよ。」
「響、韓国人になっちゃったね~。」
感心したように僕の両頬をぐいっと引っ張った。サプライズは非常に成功的だったことは間違いなかった。その時、ヘリの部屋に無数に貼ってあったポラロイド写真の中で、特に韓服を着ている写真が目に留まった。初めて見るのに何故か馴染みがあった。
「ヘリ、これどこで撮ったの?」
「あ、これ?前に話した景福宮で、去年の秋に。」
「えっ-?!」
この姿は去年の秋に僕が収めた人生ショットの中の後ろ姿の女性と正確に一致した。髪を編んでいたから、ヘリだとは想像もできなかった。携帯に保存されていたスキャン版を探して見せた。出会っていたかもしれないと思ったけど、実際に会っていたなんて。本当に不思議な偶然だった。
「えっ、私かもしれない!すごい!」
「本当にすごい。」
「後で一緒に行こうって言ってたけど、写真サークルより私たちが先に行ってたんだね。うれしい~!」
短い日本語で嬉しい感情を表現するヘリが可愛かった。急にからかいたい気持ちになった。
「ヘリ」
「うん?」
「ぼくらの心がおなじならこれからもだいじょうぶ」
「う...うん?速すぎる。何て言ったの?」
「日本語の勉強頑張って当ててみて~。」
「ひどい。教えて!」
僕たちは国籍も、性別も、性格も全て違う。お互いを理解できず対立を経験したけど、結局間違っているのではなく違うということに気づいた。文化の違いだと片付けていたことが実は性格の違いで、僕から少し努力すれば変えられる部分だった。世の中に完璧に一致する人はいない。違いを認めて合わせていくことが関係を維持するための第一歩だということを身をもって学んだ。
'僕たちは違うけど、僕たちの心が通じ合っているのなら全てうまくいくよ'
これが僕ががヘリに言いたかった言葉だった。




