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とうきょう127ど  作者: 始まりチーム
借りてきた猫
10/10

10話 羽田

 実は一種の挑戦だった。これまで先送りにしてきたことをついに実行に移した。

ユウキに関することでも、店の仕事に関することでもない。しかし僕にとってはそれなりに重要なことだった。僕の最大の恐れを克服すること。


「西田さん。」


 心臓の鼓動があまりにもはっきりとしていて、自分の体を見下ろさなくても心臓がどこにあるのか指し示せそうな気がした。西田さんは普段通り冷ややかな表情で音の発生源を振り返った。

勢いよく声をかけたものの、いざ顔を合わせてみると表情筋がひきつるような気がした。


「もしよろしければ、ワッフルを三つだけ作っていただけますか?終わってから持って帰りたいんです。」


「いいですよ。」


 無愛想な表情に変化はなかったが、西田さんは快く承諾する。

最初の頃は西田さんの前に立つだけで体が震えた。間違いがあるかないかは重要ではない。終始無表情な顔と霜が降りたような口調の前では、どんな勇気と決意も為す術もなかった。だからこそこの言葉を言いたかった。西田さん、お願いします。



 用意したワッフル三つ。一つはユウキの分、残りは.......そう、残りも僕のものではない。


「中村くん。どうぞ。」


「え?僕ですか?」


「松井くんも。」


 彼らに渡したワッフルは二つだった。一つは中村くんのもの、一つは松井くんのもの。他の人にあげることもできたが、今日だけは必ずこの二人でなければならなかった。


「どうして......。」


「なんとなく。」


 なんとなくそうしたい。韓国にはこんな言葉がある。「憎い奴にお餅を一つ余分にあげる」という言葉だ。だから今日は憎い奴にワッフルをあげようというわけだ。特別な意味はなかった。


 彼らは様子を窺いながらワッフルを受け取る。それでも動揺した様子を隠し切れないようだった。そして僕は思った。僕の勝ちだと。ここで働きながら一度も彼らを非難したり陰で貶したりしたことはない。彼らはそうしても、僕はしない。

そうすることもできたのに、そうはしなかった。だから僕は勝ったのだ。

心の中で何かが解放される感覚。ただすっきりと笑い飛ばして、彼らに背を向けた。


***


 東京の明け方の街路。ユウキは今にも寝そうな様子でふらふらと歩いている。僕より少し先を歩いているのが不思議なほどだった。ほとんど眠っている頭で、あんなに速く歩けるなんて。


「でもジヌは今日なんでこんなに遅かったの?」


「さっき店長が新人の研修期間の教育を手伝えるかって聞いてきたんだ。」


「新人?」


「うん。その子バイトは初めてなんだって。」


「へえ、すごいね......。」


 ユウキが大きく背伸びをしながら眠気を振り払おうとしたが、うまくいかないのか、すぐに口が裂けそうなほど大きなあくびをした。今日はお客さんが一段と多く、厨房が殺伐とするほど忙しかったから、他の人より二倍忙しく生きているユウキはきっとものすごい疲労を感じているはずだった。


「でもできないって断ったよ。」


「できないって?ジヌも今は仕事難しくないじゃん。」


「店長には西田さんが代わりに手伝ってくれるんじゃないかなって言っておいた。」


「だから、なんで?」


 足を止めた。すると、二、三歩先を歩いていたユウキは連れ立って立ち止まるどころか、僕が立っている場所まで戻ってきた。目は大きく見開いて、眉間は少し寄せて。


「ユウキ」


「うん。」


「僕、もうすぐ韓国に帰ろうと思って。」


 躊躇なく本題から告げた。そんな言い方をすると親切ではないと受け取られることもあるとを今は知っていた。サービス業で通常言う「親切さ」とは迂回して話すことを言うから。

しかし今は無理に親切である必要はない。僕の前にいるのはユウキだけだ。


「え?帰る?なんで?いつ?」


「冬くらい。ワーホリビザだから......そもそも長くは居られないんだ。」


「冬って、今もう冬だよ?」


 すでに口を開くたびに白い息が出ている。残り時間が少ないという意味だった。飛行機のチケットは昨夜適当な日付で取っておいて、必要な書類のほとんどは前もって処理しておいた。

店長にもすでにそろそろ辞めると伝えてある。


 やっと一人前になれたのに韓国に帰らなければならないのかと、店長もやや残念そうだったが、仕方なかった。とにかくすべての準備は済ませたので、僕がこの国を発つのは時間の問題だった。


 実はユウキにはもう少し早く言おうと思っていた。

これまで一緒に過ごした時間を考えれば、そうするのが正しかった。でも出国日が目前になった今、こうしてようやく告げている。ユウキが僕にとって何の意味もない人だとか、何か不満があって言わなかったわけではない。ただ.......


「でも僕はまた戻ってくるよ。」


「戻ってくるって?」


「やりたいことができたんだ。」


 その言葉が魔法の呪文でもあるかのようにユウキがニヤッと笑ってみせた。

いつも流れに身を任せて放置するばかりだった僕を一番よく知っているからだろう。そして、嘘は決して言わないということも。戻ってくると言ったら僕は必ず戻ってくる。


 文字通り、やりたいことができた。

もちろんビザの問題もあるが、やりたいことをするために帰るのだった。本格的に走り出す前に靴紐を結び直す時間が必要だった。


「ジヌがしたいことって何?」


「......挨拶。」


 ここに来て、しばらくの間僕は寂しかった。僕の人生の1%にも満たない数ヶ月の間、とてつもなく寂しく辛かった。もしかすると僕に必要だったのは、ユウキが僕にそうしてくれたように、明るく笑いながら迎えてくれる誰かだったのかもしれない。だから僕も誰かにとってユウキみたいな存在になれたらいいなという考えが浮かんだのだ。

 とても漠然と、そんな風に誰かにただ温かい言葉をかけてあげたいという気持ちが、いつの間にかこのような動機となって......


「異国の地から来る人たちを、僕が一番最初に迎えてあげたい。」


 そしてその漠然とした望みは現実となる。僕は、韓国と日本の境界に立ちたい。膨らんだ夢と緊張感を持って国境を越える人々に言いたくなった。


 東京へようこそ。ここは羽田空港です。


Fin.


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