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第五話「中延聖陽、異能を求めて」

 中延(なかのぶ)家。

「えいっ!」

 うーん、ダメだな。

「やっぱり、異能は使えない……」

 あの不思議な出来事から数日間、何度も試しているんだけど、異能が発動することはない。

「夢、夢なのかあ……」

 異能、本当だったらよかったんだけどなあ。

「重宝しそうだし、使えたら良かったんだけど……」

 やっぱり夢とは思えない。あれは現実のはず。

「でも、それじゃあなんで使えないのかな?」

 あの日の出来事が夢ではないならば、良霊(りょうれい)である自覚を持つ私は、異能を使えるはずなんだけど……

「うーん、なぜだ?」

 何か、他に条件があるのかなあ?

「今日は平日、か」

 森下(もりした)先生は仕事だし……迷惑になるよね。

「他の人たちはなんか、すごい人ばかりだし……」

 森下先生の仲間の人たち、私一人で会うのは、難しそうだしなあ。

「でも、やっぱり釈然としない」

 夢落ちであるはずがない、夢落ちであってほしくない。

「異能、使ってやる!」

 私は誤魔化されない、真実を突き詰めるぞ!

「……何か、変わるかもしれないし」

 異能という大きな力、きっと、今の現実を変えるだけのインパクトはあるんだと思う。

「あれ、でも何かを忘れているような……」

 何か大事な目的をもって、あの日は出掛けたはずなんだけど……

「まあ、異能の前には細かいことだよね!」

 そう、今は異能が一番大切!

「よし、外に出るとしよう!」

 家にいても、何も解決しないよね!


       ※ ※ ※


 屋外。

「とは言ってもなあ……」

 森下先生はお仕事、掛け合うわけにもいかないし、掛け合えたとしても、どうせ誤魔化されるに決まっている。

板橋(いたばし)……廣瀬(ひろせ)……」

 あの人にどうにか会うことができれば、道は切り開けるかもしれない。

「でも、どこにいるだろう?」

 もう、大学のキャンバスにはいないだろうしなあ……

西ヶ原(にしがはら)さん、こっちです!」

「待ってよー、馬込(まごめ)さーん」

「ん、西ヶ原と言えば……」

 西ヶ原……西ヶ原……西ヶ原、先輩?

「だとすれば……」

 妹さんか何かかもしれない。

「ちょっと、そこの人!」

「え、私ですか?」

 しまった、勢いで……

「あ、いきなり声を掛けてすみません」

「いや、それは良いんですが……あれ、住吉川の制服」

「はい、住吉川の生徒です」

「私も住吉川です!」

 となると、やっぱり西ヶ原先輩の関係者?

「西ヶ原さん、この方は?」

「住吉川の生徒さんで、ええっと……」

「あ、すみません、二年の中延聖陽(せいよう)です」

「先輩さんでしたか、私は一年の西ヶ原(あん)です」

「よろしくお願いします、西ヶ原さん」

 絶対関係者だよね、うん。

「私は馬込星良(せいら)です、同じく一年生です」

「はじめまして、馬込さん」

 あれ、この雰囲気、どこかで……

「西ヶ原さん、やっぱり通り名あった方がいいんですかね?」

「……いや、要らないんじゃないかな?」

「でも、こうやって名乗るときに……」

 通り名と言ったら……異能!

「馬込さん!」

「はい、なんでしょうか?」

「どうして、通り名が欲しいんですか?」

「父にはあるんですよ、通り名」

 え、もしかして……

「お父上のお名前は?」

「えっと……板橋一二三(ひふみ)ですが?」

「あれ、でも……」

「母が離婚して、私の名字は馬込なんですよ」

 完全に、一致。

「あれ、それじゃあ廣瀬さんはお兄さんですか?」

「兄のことを知っているんですか?」

「はい、ちょっとした知り合いで……」

「そうでしたか、兄がお世話になっています」

「いや、そこまでの知り合いではないです……」

「あれ、そうなんですか?」

 この娘なら、居場所を知っているかもしれない。

「廣瀬さんがどこにいるのか、ご存じありませんか?」

「すみません、知りません」

「そうですか……」

 そう都合よくはいかないか。

「兄はスマホを所持していないので、連絡の取りようもありません」

「そうなんですね!」

 全く、スマホくらい持てばいいのに!

「中延さんは、兄に会いたいんですか?」

「はい!」

「では、一緒に探しましょうか」

「え、良いんですか?」

 まあ、渡りに船だけどさ……

「馬込さん、これから遊びに行くんじゃ……」

「西ヶ原さん、困っている人を見捨てるわけにはいきません」

「まあ、今度は私の番か……」

「西ヶ原さん?」

「うん、中延先輩のこと、助けようか」

「はい、助けましょう」

 うわ、優しい後輩ちゃんたちだ!

「中延さん、家に兄はいなかったんですか?」

「え?」

「もしかして、家にいるんじゃないですか?」

「ああ、それは……」

 あの汚い家には行きたくないけど……

「行ってないんですか?」

「なんとなく、今日はいないかなって思って、行ってないんだ」

「なるほど、そうですか」

 まあでも、家に行くのが一番ではあるんだよな。

「あれ、もしかして杏さん?」

「ん、この声は……」

「杏さん、ご無沙汰。高明(こうめい)芽愛(めい)ちゃんの件、良かったわね」

「はい、本当に!」

 むむっ……この人は……

「芽愛ちゃん推しの私としても、最高のエンドだったわ!」

王子(おうじ)先輩、芽愛ちゃん推しだったんですね」

「そんなの、当たり前よ!」

 ん、西ヶ原先輩に何かあったのかな?

「あれ、どこかで見たことある顔ね」

「あ、二年の中延です!」

「確か、去年の生徒会長選挙に出ていた娘よね?」

「あ、はい、そうですね」

 私のこと、覚えてくれていたんだ。

「中延先輩、生徒会長選挙に出たんですね」

「うん、まあね」

 ……そっか、何か忘れてると思ったら、生徒会長選挙のスローガンを考えること忘れていたんだ。

「あ、私は王子朱苑(しゅおん)、まあ、覚えてるかもしれないけれど」

 あれ、この人って確か……

「ん、そっちの娘は……」

「朱苑さんですね、お久しぶりです」

「……え?」

「どうも、馬込星良です」

「馬込……」

「両親が離婚したので、名字が変わったんですよ。板橋星良、と言えばわかりますか?」

「……星良ちゃん?」

「朱苑さん、お綺麗になりましたね」

「……どうして、ここに?」

「はい?」

 これは明らかに、初対面同士のやり取りじゃないですね。

「……英国に行ってるんじゃないの?」

「英国? ああ……」

 確かあの人、嘘付いてるって……

「間違えました、私は馬込星良ではありません」

 いやいや、無理があるでしょ。

「星良ちゃん、どういうこと?」

「いや、それはですね……」

「廣瀬、英国行ってないの?」

「英国、行きましたよ?」

「……でも」

「旅行で英国に行きましたよ、もう帰ってきてますが」

「……」

「朱苑さん?」

 ああ、あの人って本当……

「……廣瀬、日本にいるのね?」

「ええ、まあ」


「「「「「「ひ・ろ・せー!」」」」」」


 うわあ、これは怒ってるよ。

「星良ちゃん、廣瀬はどこにいるの?」

「分かりません、連絡付かないので」

「確か、ご両親が離婚したとか言っていたわね?」

「はい、なので別に暮らしています」

「えっと……それは、その」

「私、主人公みたいですよね?」

「え?」

「両親が離婚なんてイベント、モブキャラにはあり得ない展開ですよ!」

「ああ、うん、そうね……」

「もう、星良ちゃんは……」

 流石、あの人たちの家族なだけあって、この娘もなかなかぶっ飛んでるね。

「えっと……廣瀬は相変わらず、携帯は持っていないの?」

「はい、持っていませんね」

「本当、あいつはろくでもないわね……」

 なんか、嫌な予感するんだよなあ。

「これから、廣瀬を探すわよ!」

 そっか、協力してあの人を探す流れか。

「それならば、都合がいいですね」

「星良ちゃん、どういうこと?」

「中延さんも、兄を探しているみたいなので」

「……どういうこと?」

 あ、これは答え方間違えると勘違いされるやつだな。

「先日、あの人にセクハラされたんですよ!」

 まあ、間違ってはいないはず。あれが現実だったなら。

「また、あいつはそんなことをして回っているのね……」

「はい!」

 森下先生の話って、やっぱり本当だったんだ。

「あれ、今先日って言ったわよね?」

「はい、先日一度お会いしたんです」

「本当に日本にいるのね……」

「はい、そうですね……」

 あの人、これから大変そうだなあ。

「じゃあ、一緒に廣瀬を探しましょう!」

「あ、はい……」

 やっぱり、こういう流れなのかあ。

「セクハラ嘘つき野郎に天罰を下すのよ!」

「そうですね……」

 まあ、セクハラのことは正直優先度低いけどね。

「あの、王子先輩……」

「あ、杏さんごめん、咄嗟(とっさ)のことに……」

「板橋さんなら、私も一度会ったことがありますよ」

「え、そうなの?」

 へえ、そうなんだ。

「はい、コンビニで小銭入れを落とした時に、拾ってもらったんです」

「ふーん、そうなのね……」

「知っていれば、先輩にお伝えしたんですが……」

「いや、知らなかったんだから仕方がないわ、ともあれ、これから探すのみよ」

「そうですね……」

「西ヶ原さん、兄に会っていたんですね」

「あ、うん……なんとなく話してこなかったけど……」

「不思議ですね、ここにいる全員、兄のことを知っているんですから」

「あ、うん……そうだね」

 そっか、本来は交わらないはずの人たちが、廣瀬さんという共通項のもと、結び付いているんだ。

「中延さん、廣瀬とはどこで会ったの?」

「王子さんの大学です」

「……それ、どういうこと?」

「その日も廣瀬さんを探していて、もしかしたら王子さんの大学にいるのかなあと……」

「……どうして、そう思ったの?」

「それは……その」

 まあ、隠しても仕方がないことか。

「王子さんと、谷在家(やざいけ)さんの様子を見に行ってるんじゃないかって、森下先生が……」

「……森下先生と一緒に探していたの?」

「はい、そうですね……」

「でも、どうして森下先生がそんなことを?」

「えっと、それは……」

 もう、全部言ってしまおう……

「廣瀬さんが、王子さんと谷在家さんのことが好きだということで……」

 私は全く悪くないからね!

「……そう」

「はい……」

「やっぱり……そうなのね」

「えっと……」

「私の見立ては当たっていたというわけね……」

「見立て?」

「……あいつは、私か有野(ありの)、どっちを選ぶかという選択から逃げ出したのよ」

「ああ、そういう……」

 好意は互いに分かっているって、本当だったんだな。

「全く……全く……」

 確かに、これは両想いというやつですね、間違いない。

「決断を、口にさせてやるわ!」

「あ、はい……」

「さて、行きましょう!」

「え、どこに?」

「とにかく、行くのよ!」

「あ、はい……」

 なんだろう、ちょっと面倒な展開になってきた気がする。


       ※ ※ ※


「いないわね……」

「そりゃそうですよ、適当に歩いているだけなんですから」

 この人って頭良い感じの印象があったけど、恋愛が絡むとそうでもないのかな?

「朱苑さん、提案があるんですが」

「星良ちゃん、聞かせて!」

「二手に分かれませんか?」

「そうね、それがいいかもね」

「どの組み合わせで別れますか?」

「星良ちゃんは杏さんと一緒でいいんじゃない?」

「そうですね、そうしましょうか」

「杏さんもそれでいい?」

「はい、私は馬込さんと一緒に回りますよ」

 ……ということは。

「中延さんは私と一緒ね」

「あ、はい……」

「問題ない?」

「はい、大丈夫ですよ」

 まあ、別に断る理由もないし。

「では、私たちはあっちを探しますね、朱苑さん」

「頼んだわ、星良ちゃん!」

「さあ西ヶ原さん、行きましょう」

「うん、行こうか」


スタ……スタ……スタ……


「でも不思議な感じがするわね」

「何がですか?」

「高明君の妹の杏さんと、廣瀬の妹の星良ちゃんが仲良いだなんて」

「まあ、そうなんですかね?」

 と言っても、私は西ヶ原先輩とはそこまで仲良くないしな。

「ああ、ごめんなさい、高明君とそこまで面識なかったかな?」

「まあ、ちょっと話したことがあるくらいですね……」

 心、読まれてる?

「心なんて読んでないわよ?」

「いや、読んでますよね?」

「そんな、普通の人間にそんなことができるわけないでしょ?」

 廣瀬さんの関係者だしな、怪しい。

「王子さん、普通の人間なんですか?」

「どういうこと?」

 おっと、これは口外しちゃいけないんだったな。

「いえ、私の気のせいです」

「そう、それならいいけれど……」

 今のは心読まれなかったし、やっぱり気のせいか。

「中延さんとこうやってちゃんと話すの、そこまでなかったわよね?」

「そうですね」

「生徒会長選挙の討論会に誘った時くらいかな?」

「はい、確かにあの時は話しましたね」

「ねえ、別に責めるわけじゃないんだけど……」

「はい?」

「どうして、あの時討論会に参加しなかったの?」

「えっと、恐いからと……」

 まあ、別に隠す必要もないんだけど……

「そうは見えなかったのよね」

「え?」

「確かに、一年生で唯一の候補者だったけど、中延さんって胆力ある人だと思っていたのよ」

「へえ、そうなんですね……」

 胆力なんて、私にあるのかなあ?

「今だってそうでしょ?」

「どういうことですか?」

「私としっかり話すのが初めてにしては、どっしりしているというか、物怖じしていないというか……」

「そう見えますか?」

「うん、私にはそう見える」

 なんだろう、さっきまでのこの人とは何かが違う。

「正直、少しあなたに興味はあったのよ」

「興味、ですか?」

「機会やタイミングに恵まれなくて、私は卒業しちゃったけどね」

「そうだったんですね」

「うん、そうよ」

 私みたいな、何のとりえもない人間に興味あるなんて、変な人だなあ。

「あれ、廣瀬さん探しは良いんですか?」

「まあ、焦って見つかるものでもないし、歩きながらでも、少し話しましょうよ」

「王子さんが良いならば、私としては構いませんが……」

 本当、動きが読めない人だ。

「それで、討論会に出なかった本当の理由って何だったの?」

「まあ、お恥ずかしいんですが……」

「ん?」

「単純に準備不足ですね」

「ああ、なるほど、繋がったわ」

「繋がった、とは?」

「選挙の為に必要な準備が追い付いてなかった、だから討論会に手を回す余裕がなかった、そういう話でしょ?」

「そこまで話していないのに、よく分かりましたね」

「一年生で会長に立候補していたからよ」

「それが、どう関係するんですか?」

「普通は、一年生で生徒会長選挙に立候補なんてしないと思う。そんな行動力ある人は稀有だと思うわ」

「それが、関係するんですか?」

「中延さんの行動力は、ある意味では向こう見ずの裏返し」

「ああ、なるほど……」

「ごめんなさい、表現が不適切だったわ」

「いえ、事実ですし……」

「まあ、それなら良いんだけど……」

 選挙の準備不足に限らず、全体的にその傾向はありそうだな。

「むしろ、なんだかスッキリしました」

「何が、スッキリしたの?」

「えっと、自己分析じゃないですけど、私が知らない私の心理が見えたというか」

「へえ、そう思うのね」

「え?」

「正直、怒られることも覚悟して『向こう見ず』だと言ったのよ」

「そうだったんですね」

 普通に、的確な表現だと思ったけどな。

「やっぱり面白いわね、中延さんは」

「私、面白いですか?」

「面白いわよ、芽愛ちゃんとはまた違うタイプだけどね」

神楽坂(かぐらざか)先輩、ですか」

「何が違うのかなあ、二人の面白さって……」

「……さあ?」

 本当、この人の感性は独特な気がする。

「二人とも、ある意味似ているのよねえ」

「私と神楽坂先輩がですか?」

 私、あの人みたいになれる気がしないんだけど……

「そう、似ている部分は感じるわ」

「どこが似ているんですか?」

「感覚的な話にはなるけれど……」

「はい……」

「二人とも、形に拘っているようには見えないわ」

「形に拘る、とは?」

「なんだろう、魂で生きている感じがするわ」

 魂……異能……

「ある意味、生存への拘りが薄いというか……」

「それ、死にたがりってことですか?」

「うん、芽愛ちゃんも死のうとしていたし」

「そうなんですか?」

「ええ、彼女は高明君の為に死のうとしていたのよ」

「へえ、そうなんですね……」

「おっと、誰彼構わず話すような話では無かったわね」

「あ、はい……」

「この話をしたことは、秘密にしてほしいわ」

「まあ、別に話を広げる理由もないので、構いませんが……」

「悪いわね」

 でもどうして、神楽坂先輩が西ヶ原先輩の為に死ぬ必要があったんだろう?

「私も、生存への拘りが薄いように見えるんですよね?」

「うん、そうね」

「どういう部分から、そのように感じるんですか?」

「準備不足な生徒会長選挙への立候補なんて、その典型だと思うわよ」

「それが、生存への拘りと関係するんですか?」

「選挙って、昔で言ったら殺し合いなのよ」

「殺し合い?」

「武力で殺しあう代わりに、選挙が生まれたわけでしょ、ある意味では戦争なのよ」

「へえ、そういう考え方もできますか……」

「その選挙にろくに準備もなく立ち向かうなんて、まさに死にたがりよ」

「でも、選挙で人は死にませんよね?」

「なんだろうなあ、ある意味社会的には死ぬんじゃない?」

「社会的に?」

「そう、負けたら恥ずかしいとか、そんな感じ」

「負けましたけど、恥ずかしいだなんて思わなかったですよ?」

「まさにそこよ」

「え?」

「普通の人は、そこまで考えて躊躇うのよ」

「そういうものですか……」

「そう、だからあなたは死にたがりだと私は思う」

「なるほど……」

 そっか、死にたがりかあ。

「でも、芽愛ちゃんとは何かが違う」

「え、同じなんじゃないですか?」

「死にたがりという部分では同じだけど、それ以外の部分では違う気がする」

「何が違うんですか?」

「さあね?」

「え?」

「なんとなく、ここは私が言う部分じゃない気がするわ」

「そうですか……」

 私と神楽坂先輩との違いかあ、なんだろう。

「中延さん自身で、見つけるべき答えな気がするわ。知らないけど」

「私自身で、ですか……」

「頑張って、答えを見つけるのであーる」

「……であーる?」

「これを語尾につけると落ち着くのよ」

「そうなんですね……」

「ええ、昔からそうなの」

 本当、不思議な人だなあ。

「まあ、今年はしっかり頑張ろうとは思っています」

「おっ、今年も立候補するのね」

「はい、今度は準備不足にならないようにしたいと思います」

「そっか、頑張ってね」

「あ、はい」

 そう、今年はしっかりと、頑張るんだ。

「でも、勢いは大事にしてほしいわね」

「え?」

「もちろん、しっかりとした準備も必要なんだろうけど、中延さんの持ち味は勢いにある気がするわ」

「なるほど……」

「欠点かもしれないけど、裏を返せば行動力の塊よ。そこを削いだら勿体ないわ」

「そうかもしれないですね……」

「ええ」

「頭に、入れておきます……」

「うん、そうしてちょうだい」

 ……おっと、本題に戻らないとだな。

「あ、王子さん、一つ聞いていいですか?」

「はい、なんでもどうぞ」

「別件というか、元の話に戻るというか……」

「うん、話してみて」

「王子さんは廣瀬さんのこと、好きなんですよね?」

「……ぐっ」

「好きなんですよね?」

「……まあ、いわゆる好きだと解釈できないこともないわね」

 解釈の余地、あるのかなあ?

「廣瀬さんとは、いつからの付き合いなんですか?」

「付き合ってないわよ!」

「いや、そういう意味じゃなくて……」

「ああ、ごめんなさい」

「いえ……」

 この人、なかなか可愛いな。

「あいつとは、小学校一年生からだったかな?」

「いわゆる幼なじみというやつですね」

「まあ、そうね……腐れ縁、とも言うけれど」

「私にはそういう人、いないんですよねえ」

「そうなの?」

「はい、昔からの友達っていなくって」

「まあ、そんなに珍しいことでもないわよ」

「まあ、そう思いますが、少し羨ましくもあります」

「羨ましいのね」

「はい、市ヶ谷(いちがや)先輩を見ていても思います」

「市ヶ谷さん?」

「はい、小村井(おむらい)先輩との関係とか、なんか良いなあって」

「ああ、小村井君が幼なじみだったわね」

「はい」

「あの二人、結局どういう状態なの?」

「え?」

「付き合ってないの?」

「まだ、付き合ってはいないみたいですね」

「そうなのね」

「はい、だからなんだろう、じれったくなるんですよ」

「中延さんが?」

「はい」

「そっか、中延さんはそういう存在なのね」

「どういうことですか?」

「きっと、二人だけじゃいつまでも進展はないんでしょうね」

「ああ、曳舟さんも似たようなこと言ってましたね……」

「曳舟さんって?」

「私の友人です。私がいるから、二人の関係は進展があるって言っていました」

「やっぱり、そういう存在が最後には必要なのよ」

「そうですか……」

「高明君たちもそうだったもの」

「西ヶ原先輩たち?」

「おっと、これは高明君たちの物語の話だったわね」

「物語?」

 本当、西ヶ原先輩に何があったんだろう?

「まあとにかく、二人だけではままならないことって多いのよ」

 なぜだか、謎の説得感を感じるなあ。

「中延さんは役割重大ね」

「役割、ですか……」

「そう、物語の展開は全て、中延さんの動き次第」

「私、そこまで影響力無いと思いますけど……」

「向こう見ずの死にたがり」

「え?」

「死にたがりの存在無くして、物語は動かないものよ」

「それって、切込み隊長ってことですか?」

「そう、必要な犠牲とも言えるかな?」

「それ、割に合わないですね……」

「そんなこともないわよ?」

「どういうことですか?」

「いや、割に合わないかもね……」

「どっちですか?」

「中延さん自身には利益はないわよ、多分ね」

「そうですよね?」

 そう、別に私の恋愛が成就するわけでもない。

「ただ、世界はきっと変わる」

「世界、ですか……」

「そこの捉え方次第ね、中延さんの」

「私の?」

「自分を犠牲にしてまで、世界に爪痕(つめあと)を残したいのか次第、かな?」

「そうですか……」

 そっか、それでも私は、何かを残すことができるんだ。

「まあ、普通はそこまでしないだろうけどね……」

「なるほど……」

 でもそっか、考え次第では確かに意味があるんだ。

「まあ、この件に関しては犠牲になってもらわないと困るけどね」

「この件、とは?」

「私と廣瀬の件よ」

「……王子さんの件ですか?」

「そう、私がそのまま廣瀬にぶつかっても、解決しない気がする」

「そうなんですか?」

「正直、廣瀬を目の前にして、私は理性的に振舞える気がしない」

「今、凄く理性的に見えますけど?」

「そんなことはないわよ、内心ではグツグツと沸いているわ」

「そうですか……」

 この人の振る舞い、本当に自然な感じがする。

「だから、お願いね?」

「え?」

「切込み隊長の役割、頼んだわよ?」

「面と向かってそれ言うの、凄いですね」

「私の為に、死になさい」

「ふふっ……まあ、それも悪くないかもしれません」

「じゃあ、お願いね」

「はい……」

 不思議と、苦労に見合った対価は得られる気もする。

「そう言えば、中延さんはどうして廣瀬と会いたいの?」

「えっと、セクハラだって……」

「それだって、表面的な理由でしょ?」

「……どうしてわかるんですか?」

 嘘、バレてるの?

「セクハラされたなら、その場で済ませば良いことでしょ、わざわざ日を改めて会いに行く理由がないと思うわ」

「じゃあ、さっきのは……」

「ほら、星良ちゃんと杏さんがいたでしょ?」

「はい、いましたね……」

「二人の前で話を深堀りするのも、どうかなあって思ったのよ」

「そこまで考えていたんですか?」

「ううん、後付け」

「後付け……」

「よく考えたら不明瞭な理由だなあって、そう感じたのよ」

「探偵みたいですね……」

「探偵?」

「私のこと、よく見ているなあって……」

「私はジャーナリストよ」

「ジャーナリスト?」

「だって、新聞部の元部長だもの」

「ふふっ、そういうことですか」

「そういうことよ」

 私、この人のこと好きかもしれない。私が力になれるのだとしたら、それって素敵なことなのかもしれない。

「それで、どうして廣瀬に会いたいの?」

 おっと、見過ごしてはくれないみたいだ。

「誰にも、内緒にしてくれますか?」

「え?」

「私自身は話してもいいと思っているんですが、どうにも、あまり話すような話では無いみたいで……」

「それじゃあ、無理に言わなくても……」

「いや、正直一人では抱えきれなくて……」

「そうなの?」

「王子さんなら、話がちゃんと通じるかなって……」

「お、随分と信頼されたものね」

「王子さんなら許容できるかなって、さっきから話していて思いました」

「まあ、私ならどんな話でも付いていける自信があるわ」

「それであれば、お話しします……」

「ええ、お願い……」

 さて、どこから話そうか……


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