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恋のチカラ ~奇跡のひだまり~  作者: 小林汐希
第1部 いつか並んで歩いた道
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第31話 未来への準備と明日の予定




 年が明けてから、俺たち二人のスケジュールは忙しくなった。


 陽咲が入院、手術をする日も決まって、俺たちは健康状態を常に管理された。


 俺は会社の食事にも気を付けるようになり、酒も絶った。


 健康管理も理由の一つだけど、陽咲が帰ってきたら、その時に一緒に祝杯をしよう。それまでは好きなことも絶つ。彼女のこれからの孤独な戦いを考えれば何とでもないことだ。



「剛さん、今日ね、私たちこれまでよりもっと、そうですね、一番近づいたんですよ?」


 病院の帰り、陽咲は腕をさすりながら、それでも嬉しそうに話した。


「そんな治療があったのか?」


「今日の治療で、私の検査用採血で抜いた分、剛さんの血を輸血してもらったんです。今、私の中には剛さんが流れています。どんな恋人にもこんな芸当はできません」


 俺は月に一度、自分の血を採血することになった。陽咲の治療や万一の時の輸血用だ。


 男性と女性にある成分比率という、どうしようもない部分以外、俺と陽咲は適合しているとのことで、最後の試験として拒絶反応に関するデータを取っているとのこと。


 術後、彼女の体には俺と同じ血が流れることになる。その試験の事を言っているらしい。


「結果はどうだって?」


「それが、なにもないんです。完全に受け入れているって。先生方も驚いてました」


「よかったよ」


 一度は絶望の中、泣き崩れていた日々。


 今は違う。決して楽観は出来ないけれど、未来の夢が見えるようになった。そんな陽咲は変わったと思う。


 わずか1カ月前、ビルの屋上で心細そうに揺れていた瞳に力が戻ってきた。あんな顔は二度としてほしくない。


「剛さん、週末はお仕事お休み?」


「そうだよ」


 今日は午後いっぱい病院というので、俺は定時で会社を飛び出し、陽咲を病院に迎えに行った帰りだ。


「じゃあ、今夜はいっぱい……」


「あーあ。ひなちゃんも変わったなぁ。明日の遊園地寝坊しても知らないぞ?」


「いつも寝坊しちゃうのは剛さんですよぉ?」


 陽咲の手料理を食べ、一緒に入浴した後、俺たちは暗くした部屋の中で手を繋いで寝るまでの時間を過ごしていた。


「あの……、昨日学校から書類を貰ってきました」


「なんか出すものあったっけ?」


「退学届の用紙を貰ってきました」


「えっ?」


 聞いていない。そもそもこの町に越してきた理由の一つに、大学生活をしたいという願いがあって、受験勉強も体と相談しながらやってきたと。


「いいんです。2年なら確かに休学にもできます。でも、行きたければ、またゆっくり行けるんです。今は病気を治して、剛さんに『ただいま』って言えることだけを考えます。お母さんにも許してもらいました」


「そうか。いつ出しに行くんだ?」


「いつでもです」


「じゃあ、明日一緒に行こう」


「一緒に行ってくれますか?」


「もちろん。ひなちゃんにだけ辛いことにはさせたくない」


 彼女だって、何もなければ自由なキャンパスライフを送れたかもしれないのに。


 心の傷をまた一つ増やしてしまうことになる。そばにいてやりたかった。


「はい。あの……、お嫁さんが高卒って嫌ですか?」


「俺は、ひなちゃんがいいんだ。学歴なんて関係ない」


「はい。剛さんでよかった……」


 陽咲の唇をそっと塞ぐ。


「陽咲は誰にもやらない。俺だけのパートナーだ」


「はい」


 その言葉に嘘偽りはない。命を救えるとかそんなことよりも、彼女の存在そのものが俺には一番大切なものだと思っているからだ。



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