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恋のチカラ ~奇跡のひだまり~  作者: 小林汐希
第1部 いつか並んで歩いた道
25/55

第25話 何かある12月24日…




 12月。今年もその時期が来た。


 俺たちはそれまでと変えることなく過ごしてきた。


 あれから、幸いなことに陽咲は元気でいてくれた。


 来年の春には、陽咲はこの土地を離れて、治療に入る。


 転院に不安もあるけれど彼女の主治医も全力を尽くすために、病院を移るとの事。




 今年もあの教会に訪れるつもりだった。


 今年、俺は陽咲の誕生日と翌日に休暇を取った。何か言われることは覚悟の上だ。それでも彼女との時間を過ごしたかった。


 去年と同じようにプレゼントを一緒に選んで包んでもらい、陽咲の部屋に置いて当日に向けて準備した。


「剛さん、しばらくお預けになっちゃうから、今年は甘えます」


「もちろんだ。どこまでやるか?」


「えー、そっちですか?」


 今でも身体の関係は大きく進めていない。それは彼女が帰ってきてからで十分間に合う。


 他愛ない会話で準備して迎えた12月24日。


 陽咲が再び姿を消した。





 慌てて実家に連絡をしたが、戻ってはいないという。


 俺は実家の恵に許可をもらい、封筒に入っていた陽咲の部屋の合鍵を初めて使うことにした。何かあったときにと渡してもらったものだ。


 部屋には誰もいない。夏と違うのは部屋がきれいに片付けられていたことだ。


 窓際に二人で飾り付けた小さなツリーが置かれている。その下に1通の手紙が挟んであった。一目で間違いなく陽咲の字だと分かった。


『剛さん、ごめんなさい』


 そんな書き出しで始まる手紙。これまでの礼と、一緒に過ごした楽しかった思い出が綴られていた。


 その一つ一つが最初で最後だと思いながら、たくさん思い出を作ってもらったことの感謝。同時にいつか消えてしまうと分かっていながら、それを言い出せなかった自分を許して欲しいと。


 自分で決断した春からの治療。これが怖い。彼女にとっての2年は未知の時間。


 帰ってこられるのか、自信が持てない。それならば……。


「バカ野郎!」


 俺は部屋を飛び出した。


 雨の町中を走り回り、二人で行った場所を見て回った。学校や病院も探したけれど、彼女の姿は見えなかった。


 とんでもないクリスマスイブだ。街の中は幸せそうな空気が漂い、イルミネーションが点り始めている。


 日が落ちた頃、俺はフラフラになって、昨年二人で訪れた教会に戻ってきた。陽咲の一番のお気に入りの場所だったし、彼女の職場でもある。誰かに救いを求めるなら、ここしかないと思ったからだ。


「いかがなさいました? あら陽咲さんは?」


 今年も準備をしていたあのシスターが出迎えてくれた。


「彼女が、陽咲が自分を絶とうとしています。ですが、どこにいるのか分からないんです」


 俺は握りしめた手紙を見せた。汗と雨にまみれ、それはもうグシャグシャになっていたけれど。


「まだ間に合います。ここにあるように、彼女は今日いっぱいどこかで貴方を待っています。それほど遠いところではないはずです。諦めてはいけませんよ」


「ですが」


「陽咲さんは、よくこちらで祈りを捧げていました。このバージンロードを貴方と歩きたいといつも話していました。必ず神様はお二人を見ています。陽咲さんを信じてあげなさい」


 俺は携帯を見た。いつの間にか、いくつかのメールが入っていた。


「陽咲!」


 写真つきのメールが受信されている。本文は何も書かれていない。


 いま、ここにいるのか、それとも何かのヒントなのか。


 ビルの屋上なのか、夜景に少しなる前の景色。


「ほら、陽咲さんは貴方に来て欲しいと願っています。彼女は待っていますよ」


 どこなんだ。ビルの屋上ならいくらでもある。暗くなった今から、全てのビルを確認するのは不可能に近い。


 頭を抱えながら、もう1枚の写真を見たとき、俺は頭を思いきり殴られた気がした。


 携帯から撮影している景色に、ビルの保安灯が写っている。そこに『新栄システム』という表示板が見えるじゃないか。


「行ってきます!」


 もう一歩も動かないと思っていた足に、再び力が戻ってきた。


「まだ十分に間に合います。お気をつけて」


 俺は一度部屋に戻った。作業着を羽織ってすぐに飛び出す。車にヘルメットがあるのを確認した。よかった。昨日は現場から直帰したからこの装備がある。


 クリスマスでただでさえ渋滞している道路は、おまけの交通事故も重なり、遅々として進まない。イライラしながら何度も公私共に足を運んだビルを目指した。



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