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パティスリーパッパ

「いらっしゃいませ。パティスリーパッパへようこそ。」

小さなコックコートの少女が席の案内をしてくれる微笑ましい姿が見られるパティスリー。

想像以上に姪っ子、マチルダはこの街に溶け込んだ。

この街で暮らす間、彼女は遠山 さくを名乗り生きる。


「さくちゃん、いつもの日替わりセットね。」

はい、ノブくんのおじ様。すぐにお持ちします。

まだ4歳だというのに。店の手伝いもする俺にはもったいないくらいの娘。

パーパ、日替わり一つです。

オーダーを通す声もかわいくて。

小さいころ追いかけた姉さんに似た面差しの娘。


「さくちゃん、ウチで働かないかな?」

キッズモデルのお話をマチルダの友達の親より持ち込まれる。

どうやら、双子モデルとして売り出す片割れを探しているらしい。

この話を受けるかどうかはマチルダ次第としておいたのだが…。


「和音さん、モデルをすればあたしここにいていい?」

驚いたことを言うものだ。

あたし、和音さんの足手まといになりたくない。

マチルダが芸能活動を始めたのはそんな理由からだった。


「和音さん、今度、ドラマに出ることになったの。」

マチルダはモデル業だけでなく、女優としても頭角を表した。

さすが姉さんと義兄さんの娘だけあって、将来は美人に育ちそうだと思っていたのだが。

その見目を生かして働き始めるなんて思わなかった。

マチルダには幸せになってもらいたかったのに…。


「マチルダ、お前は幸せかい? 」

6歳の誕生日だったか和音さんはそう聞いてきた。

もちろん、幸せって答えた。

この幸せがなくなるなんて微塵も思っていなかったもの。


「さくちゃん、電話来てたよ。」

マネージャーから伝えられた言葉を聞き流しつつ、電話の主を…。

篠さん、第5地割総合病院へ。

和音さんが…。おじさんが…。


自動操縦の判断ミスのトラックが材料を買いに出たパティシエと衝突した。

不慮の事故だった…。


「さくちゃん…。」

取り乱して泣きわめく私を抑えてくれたのはマネージャーだった。

生まれて6年で2度も家族を亡くした。

もう、誰かと生きるのは諦めようと思った。


「…WCC通知?」

未来通知によると、私はこのあと高等教育都市フェルネウスに向かうらしい。

途中の養育惑星イオネウスまでは自分で向かい、船団に組み込まれるらしい。

高等教育都市の教育課程を終えた後、特定機密事業未来project被験者となる。

学業を終えた後…。


「篠さん、お世話になりました。」

まさか、あの兄さんの弟に引き取られるとはなぁ。

ええ。優しそうな人でよかったです。

養育惑星イオネウスへ向かうことはトップシークレットだ。

10年後、16才の私はprojectに関わることを選ぶのだろうか?

いつか、ここに戻ってくることを願って。

キャリーケースを手に朝日眩い中を行く───。

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