記憶
「…おじさん、最初の記憶もこんなネオンの町の記憶でしたね。」
惑星間移動用自動航行システムの不具合が起こっていたのは十数年前。
仕事で惑星間を頻繁に移動していた両親はその事故に巻き込まれてしまい。
生活の拠点としていた育英都市に残されていた私だけが助かった。
「…遅くなりました。」
忘れもしない、桜の時期。
身近な人などあるわけもなく、国が派遣した采配のアンドロイドによって両親の葬儀が執り行われていた時だった。
会場に慌てた様子で駆けつけてきたのはまだ学生といっても違いないような若い青年だった。
「…ID認証…。
労働惑星シランからお越しの遠山 和音サマ。」
従兄弟たちは来てないのか…。
アンドロイドの姿しか確認できぬ会場に寒気を覚えつつ、祭壇の前へと歩みを進める。
「…あぁ、姉さん。」
涙に煙り、遺影の顔すらまともに見られない。
この星を離れる前はあんなにも生き生きと連絡を寄越したのに。
…ピピッ。
機械音の後、つたない言葉が耳に入った。
「おにいちゃ、だぁれ?」
見ると、2つにも満たないような小さな子供が揺りかごマシーンに載せられていた。
さんざん泣き腫らしたのであろう、目元が赤く晴れてまつげには涙の滴がついている。
その辺のアンドロイドを捕まえて子供の素性を探る。
「浅井 マチルダ。姉さんの子か。
葬儀後は養育惑星イオネウスにて、特別養育。
その後…。」
こんな人生あんまりだと思った。
家族の愛情も失い、間もない子供を誰も引き取らないことが。
「この子はうちで引き取る。」
WCCには通知はされてないが、これも何かの運命と感じた。
WCCの通知はないが、この選択が最良な選択と思える。
さっそく引き取る手続きをして、二人で発つ。
「…育英都市トロント、第5地割B地区青葉荘に居住。職業、パティスリーパッパ店主。
家族構成、娘マチルダ。」
今日から、これが俺の経歴になる。
少し前までは労働都市のしがないホテルでパティシエ の見習いをしていたのに。
前の仕事には後悔も未練もない。
むしろ。自分の店を持つことが夢だった。
カフェスペースも併設の真新しい店内。
本来なら別の人がWCCの選任で来るはずだったのだが。
どうも、後一年留年らしいから来られないとのこと。
「マチルダのためにも頑張らないとな。」
彼女の基本データは僕の養女になったことを隠して本人には見えるように設定をした。
本当のことはまだ、知らなくていい。
それを知るときは───。