シンクロ
「…浅倉 ルーはいるかしら?」
その通信は自宅用端末に入ってきたものだ。
ルーが買い物に出掛けている間にルビーと留守番をしていたのだが。
どちら様かはわかりませんが、ルーに伝言を伝えることなら可能ですけれど。
「…あっ、ごめんなさい。
私は浅倉 ルーの母親です。」
ルーが高等教育都市を出たと聞いて連絡先を問い合わせたの。
どうして、ルーが高等教育都市に行ってしまったのか知りたくて。
この人は、私と同じなのだと感じた。
今から十数年後、この子が高等教育都市を出たときの私。
腕の中で眠るルビーを見たら…。
「何の用ですか?リルさん。」
冷ややかに受信機を横から拐い、会話を続けるルー。
その表情は冷淡そのもので笑顔のひとつもこぼさない。
ああ、それでしたら僕のIDにかけてください。
ごめん、迷惑かけたな。
素っ気なく言うルーにどう話せばいいのかわからない。
「ねぇ、ルーには帰る場所があったの?」
高等教育都市には原則で満15歳の属する学年が修了する日までいられる。
家政学部に入学した場合のみ1年間の猶予があるが、卒業生はWCCの指定地域にて就労なり進学が待っている。
だが、ほとんどの者は進学をしない。
高等教育都市では育英都市で言うところの大学卒業レベルを15歳までで終えてしまうからだ。
つまり、ルーは母親を名乗る人のもとで暮らすことも未来判定で出るのではないだろうかと思うのだ。
「うーん?あったにはあったんだけど。」
ルビーを受け取り、あやしながらも寂しそうな瞳で答える。
この子と同じだよ。
このprojectの被検体だった。
projectで6歳までで育ったんだ。
「…っ。」
突然のルーの言葉に頭がついていかない。
6歳の誕生日の前日、仮親からこのままうちで引き取りたいと申し出があった。
俺も、そのつもりでいたんだけど、何か違うと思っていたら、仮親から離れたとき確定未来通知を受けた。
高等教育都市に入ってこのprojectに携わる未来が通知された。
だから、仮親に何も言わずに失踪した。
「ルビーにはそんなことさせたくないな。」
きちんと相談してもらえる、頼りがいがある親になりたいよ。
そんなの、もうなってるよ。
ルビーの発熱の夜以来、本当に頼もしくなった。
それを伝えられないことが辛いけれど。
「今は現実じゃない。
ここは一時的なまやかしの世界でしかない。」
最後に出演したドラマのヒロインの台詞とシンクロする。
夜風にあたりながら遠山 さくであった自分を述懐する───。