共同作業
「…えっ?ルビー?ルビー?
どうしたの?」
山田さんの警戒アラートで目覚めたのは何でもない日の深夜だった。
山田さんはルビーのバイタルを一晩中見ていてくれるためにこのprojectは成り立つのだけど。
「マチルダさマ、ぼっちゃマは高熱デして。」
嘘?そんなときにルビーを一人にしたの?
あたし、ルビーにどうしてあげればいいの?
騒がしいぞ、マチルダ。
眠い目を擦りながらルーが起き出してきた。
慌てた様子のあたしを見て、端末を山田さんにかざして現状を把握する。
ああ、熱か。
冷静に言い放ち、端末を操作する。
「マチルダ。いくぞ。」
上着を乱暴に投げつけながら、自分は早々と着込み、ルビーには暖かな毛布を用意する。
すぐに用意された車に乗り込み、病院へと向かう。
病院でもすでに連絡がなされていて処置に入る。
ああ、ルビーが昼間にいつもよりグズっていたのは、ミルクの飲み方が弱かったのはこのためなのかな?
気づかなかったなんて…。
マザー失格ね…。
「…マチルダはいいマザーだよ。
賢くて美人でルビーをとても大切にしてる。
最初から完璧な親を演じる必要はないんじゃないか?」
マチルダの手を握り、正面を見据えているルーの心がわからない。
ただ、その手は優しい暖かさがあった。
その事に泣けてきて。
優しく背を撫でてくれる手が大人びていて優しくて。
「おいっ、泣くなよ。」
参ったなぁ、こんなときどうすればいいんだ?
俺のマザーは弱い人で、よく夜中に熱を出す俺に付き添っては泣いていた。
俺のファザーは優しい人で彼女を抱き締めて涙を拭ってあげていた。
彼女の看病や知識は的確だったし、それを支える彼の姿を見ていたからそう振る舞うのが当たり前だと思っていた。
「優しいのね。」
照れ臭くてすぐに反論をする。
いいや、ルビーのことは我が家の共同作業だからな。
家族と思ってくれたこと、それが嬉しくてまた、悲しくて。
大切な家族の生きた証、存在を忘れそうで怖くて。
過去を捨ててきたけれど、その人との大切な記憶をprojectの対価にはしなかった。
「…マチルダ、俺の大切な…娘。」
あの人はそう言って笑ってくれたから。
大切な家族と言ってくれたから。
だから、大切な家族の記憶を対価にはできなかった。
言葉にもできず、涙が伝うばかり。
「…ただの風邪ですね。」
ご夫妻揃って来られるとは、この子にとって最初の発熱記念日でしょう。
えぇ、共同作業のような気持ちで、ルビーは二人の宝物だからつい。
笑う彼女に悲しみは癒えたのだと思った───。