記録
「と、まぁこんな感じでここでの生活をしていたわけ。」
だけど…。
自動操縦の判断ミスのトラックが材料を買いに出たパティシエと衝突した。
不慮の事故だった…。
「事故の原因は、…私から両親を奪った事故と全く同じ。
自動操縦時のシステムのエラー。」
両親の事故の時にエラーを改善できていれば、あるいは和音さんの事故は起こり得るはずがなかった。
国はこの不手際で二度も保護者を失い、養育惑星へ向かうしか方法がなくなった私に賠償をした。
「私はここを動きたくないと言ったけれど、他に、保護者を名乗ってくれる人居なくて…。
だから、このお店に関する権利の一切を私1代限りでいいから認めさせた。」
当時の幼い私にはこれしかできなかったのよ…。
和音さんが実在する人だったと証明するものを遺すことは。
しかたなく、この都市から出るしかなかった…。
「それで、さっきの人なんだけど…。
私がイオネウスからフェルネウスに向かう船団に居たと証人を作ろうとして失敗した成れの果てでして…。」
有事のとき、イオネウスにいたことを証明する証人が居なくて困ることがないように。
フェルネウスに移動する前に彼を巻き込み、今回、このような事件に至ってしまった…。
「実は、このProjectが終わったあとの未来通知もある程度予想はついてる。」
このお店に関する権利と選択したパティシエの進路…。
食品を扱う資格の取得と経営の手続きは必要だけど、たぶん…。
「フェルネウスに移ったあとも、部活で演劇を選んでお店の開店資金貯めるために1年と半年前までさくの活動を続けたの…。」
遠山 さくの活動は高等教育都市で言うところの育英都市等と交流を持ち、外の世界へ出た時に円滑に馴染むための活動と部活動の一環で認められていた。
そう言えば、俺の所属していたWCC研究部でも、他都市との合同の仕事を請けていたりしていた。
フルリモートでも可能であるSEを生涯設計として描いているために高等教育都市の生徒だと表には出さずに済んでいた。
「遠山 さくが引退してからはルーと同じように高等教育都市に残って、家政学部に入ってProjectに参加することになったの…。」
覚えている。2年前、高等教育都市の食堂のテレビに映っていた遠山 さくの引退会見。
学業と女優業との両立が難しく、学業を優先したいための引退を発表する彼女はとても凛としていた。
僕らと同じ高等教育都市の子どもだとは全く考えつかなかった。
「これが私の記録のすべてよ。」
山田さんの記録に追いついたのだろう、最後の写真は出会った時の彼女と同じ…。
知り得たことに驚きと受け入れることに戸惑いがある。
捏造されていない素顔のマチルダ…。
遠山 さくでも、浅井 マチルダでもない二人の交錯地点。
膨大な情報量を受け止めきれない___。




