登校
「はい、ではお預かりしますので。」
ルビーは近くの保育所に預け私たちは登校する。
今日から新たに通うのは高等学校と言うもの。
私たち家政学部の卒業生は高等学校一年目に相当する教育を受けつつも、子供との接し方、発達の仕方を一年で学ぶ。
2年次編入という形で入学することとなる。
「今日から新しく編入してきた浅倉 マチルダさんと、浅倉 ルー君だ。
彼らはWCCにより結婚している夫婦である。」
挨拶をして席に座る。
WCCにマチルダからのメッセージ。
ルビーは一人でお迎えに行くとのこと。
承知のメッセージを返しておく。
放課後は新しくダチになった奴らと帰る。
「おい、あれお前の嫁じゃないか?」
スーパーの前でルビーを抱いて、重たそうな荷物を抱えるマチルダを視界に留める。
行ってやれよ、と背中を押されてはいかないわけにいかない。
「ルビー、山田さん待ってるし早く帰ろうか。」
重たい荷物はあるが、最初からルーの協力など当てにはしていない。
あたしのいた、フェルネウス第一家政学部では男女それぞれの先輩とのセッションがあった。
女性の先輩方からはパートナーは非協力的だと聞いていたし、ルーもルビーに関心などないように見てとれた。
ふっと人影が差したかと思うと、手に持った荷物を奪われる。
「…えっ?」
人影の方を振り返る。
そこには息を切らせたルーの姿。
手には先程まで持っていた荷物を持っている。
バーカ。こんな重い荷物とルビーを一人で抱えて。
朝に頼んでいれば一緒に行動したのに。
これからは、きちんと朝か、WCCで知らせること。
「…うん。」
嘘っ。
高等育英都市で育った子供は外で育った子供に比べて配偶者に冷たいとレポートに綴ったのは他ならぬ自分だ。
こんなに優しい人なんて例にはなかった。
WCCではルーはSEに、あたしは菓子店を営むことになっている。
人生の岐路が交わるのはこのプロジェクトの間だけ、その後の未来は岐路線が一本しか見えなかった。
不要であるから、あたしの人生の岐路から消去されたのだろう。
「ありがとう。」
自然に微笑んでいた。
一時だけ重なる人生だから。
また、1人に戻ることになるとわかっているけれど。
今だけは、ほんの数時間前に始まったこの家族の生活の中にいたいと思ってしまう。
和音おじさんと暮らした時に似た感情。
違う。あたしはただ、通学のできる環境がほしいだけ。
それだけのはず、なのに…。