#87 視野が広くても後ろは見えない
先日、ユニークPV8000を超えました。
読んでいただいた皆さん、ありがとうございます。
「はぁ? それで連れて行かれたわけ?」
驚きを露わにする蓮の声が、中庭に響き渡る。
「というか、あの状況で断るのは難しかったと思う……」
弥勒寺先輩が引き連れていた(のかは分からない)多数の女子生徒の前で誘いを断るには、相当な胆力がいるはずだ。
前にネットで似た話を見たことがある。フラッシュモブを使ったテーマパークでの告白について、『あんな状況で断れるはずがない』『脈なしだったらどうしたらいいんだ』と批判していたものだ。周囲にいる人間に、断るはずがないと期待の眼差しを向けられる中で、ノーと言うのは難しい。
俺もその原理を利用して、弥勒寺先輩に勝負を挑もうと思っていた。だから今回は、意外な形で自分の作戦の威力が証明されることになった。
とはいえ、そう呑気に構えることもできない。
「……弥勒寺先輩のあの態度、明らかに小野寺の為の顔だ」
「私聞いたことがあるよ! 弥勒寺先輩は、男子と女子で態度が全然違うって。その時は、弥勒寺先輩を妬んでる人の偏見かなってスルーしてたんだけど、もしかしたら……」
「噂は本当かもしれないというわけだね」
「矢野、花森先輩がどこで昼食取ってるか知ってるか?」
「生徒会長になってからは、生徒会室で食べてるって言ってたけど――」
「ありがとう、ちょっと生徒会室行ってくる!」
憶測で議論するよりも、弥勒寺先輩をよく知る人のところに行くのが手っ取り早い。それに、もう一つ相談したいことができた。
味方だって言ってくれたんだ、協力してもらえるだけしてもらうぞ……!
筋肉痛に悩まされる足で、勢いよく校舎内を駆ける。生徒会室に行く為に廊下を走っていると知られたら、花森先輩に怒られてしまうかもしれない。けど、今は一刻の猶予もなかった。明日からの小野寺の――俺達の平穏の為、花森先輩の力が必要だった。
「失礼します……」
はやる気持ちを乗せて、生徒会室の扉を開く。
矢野の話通り、花森先輩は生徒会室で昼食中だった。ティーカップがカチャリという音を立てると、花森先輩の視線が俺に向けられる。
「廊下を走ってはいけませんよ?」
「え……」
花森先輩は笑顔だ。しかし、その背後から炎が揺らめき始めているのを、俺は感じ取った。
聞こえてたのか……?
開口一番、思わぬ指摘に俺は動揺を隠せない。
「どうして知ってるんだって顔をしてるわね。簡単な話よ、あなた達の足音がここまで聞こえてきたから」
「それは……すみません」
超能力でもなんでもなく、ただ俺が焦りすぎていただけらしい。
――ん? 待てよ。花森先輩、今『あなた達』って言わなかったか?
俺は疑問を確かめる為、後ろを振り向く。するとそこには、中庭に置いてきたはずの面々がいた。
「何驚いた顔をしているんだい?」
「いや、いるとは思ってなくて……」
「ほら言ったでしょ? 光は後ろをついて行っても気付かないって」
「あはっ、光君無我夢中って感じで走ってたもんね!」
花森先輩の耳に届いたのは、俺だけじゃなくて四人分の足音だったのか。それなら地獄耳の件にも納得がいく。
「それで、皆で押しかけてきてどうしたの?」
「実は聞きたいことと相談したいことがあって……」
「それなら、席に着いて話してもらおうかしら。せっかくだから、一緒にお昼を食べましょう?」
目配せで、花森先輩は俺以外の三人にも着席を促す。
全員が席に着いたところで、花森先輩は口を開いた。
「まずは”聞きたいこと”から、話してもらえる?」
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