表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
助けたギャルが高嶺の花だった  作者: 大豆の神
そして二人は――
86/123

#82 世の中にはこんな男もいる

 小野寺が要件を述べると、生徒会室の空気が引き締まるのを感じる。


「――そうよねぇ。きっとその話だと思ってたの」


 穏やかな口調は崩していない。それでも、後ろに般若が見え隠れしていた。


 ……俺、夢見てるんじゃないよな。あれってどういう技術なんだ?

 花森先輩の背後で苛烈な炎を滾らせている恐ろしい面、それと目を合わさないようにしながら口を開く。


「俺達の用件に心当たりが?」


「そうね、あなた達二人が来たってことはもしかしたら……って」


 俺達と弥勒寺先輩に何かしらの関係があると、この人は知っている。……どうしてだ?


「お話する前に、一つだけはっきりさせておきたいことがあるの」


「……なんですか?」


 恐る恐る質問する小野寺に、花森先輩は変わらず笑顔で返す。


「私は、あなた達の味方よ」


「私達の、味方……」


「いきなりで混乱しちゃうと思うんだけど、今から説明するから安心してね」


 俺達の応対をする花森先輩は笑顔を崩さない。けど、それが友好の証と判断するには早い気がした。なぜなら……


 彼女の背後の炎は、今もなお轟轟と燃え盛っているからだ。


 花森先輩は俺達の味方……じゃあ、あの般若はなんなんだよ! 頼むから消してくれ! このままじゃ聞いた話も右から左に流れていきそうだ。


「(あれ、弥勒寺先輩の話をしている間は消えないと思ってた方がいいよ)」


 俺の不安を察してか、矢野が小声で助け舟を出してくれる。しかし、その内容は救助というよりも沈没予告みたいなものだった。


 ……沈没するって分かってる方が気は楽……なのか?


「それじゃあ私は、二人を届けたんで帰りますね。お先でーす!」


「話、聞かないのか?」


「んー、聞きたいのは山々なんだけど、こういのって繊細な話だからさ。それに私、バイトあるから!」


 おそらく矢野は、花森先輩のする話に察しがついているのだろう。こういう気遣いができるところに、矢野の人脈が広い理由があるのかもしれない。


「矢野さん、いい子よね。私は全然聞いてもらっても構わなかったのに」


「麗奈ちゃんはとってもいい子です。だから、その……可愛がってあげてください!」


「うふふ、そうね。さて……そろそろ本題に入らいないとね。二人とも、座ってちょうだい」


 俺達に着席を促した後、花森先輩はお茶を一口飲む。カップの置かれた音が、開始の合図になった。


「私と弥勒寺先輩が、去年までお付き合いしてたことは聞いてるわよね?」


「はい、麗奈ちゃんから……」


「私達が、どうして別れたか知ってる?」


 その問いに俺達は首を横に振る。


「彼ね、好きな人ができたんですって」


「付き合ってるのにですか?」


「あら、間宮君って初心なのね。――小野寺さん、彼のことちゃんと捕まえておかなきゃダメよ」


「え?!」


 ボンッと音を立てて、小野寺の顔が真っ赤に染まる。

 許婚の噂が消えないので、この手のイジリに遭遇する機会は多い。その度にこういう反応されると、俺に気があるのかと勘違いしちゃうから困るんだよな……。もちろんそれが勘違いじゃなくて、事実なら嬉しいんだけど。


「……それで! 弥勒寺先輩って、今も好きな人がいるって告白を断ってるんですよね?」


 場の空気に耐えられなくなった俺は、無理矢理話を前に進めようとする。


「そうみたいね」


「あ、あの……! 弥勒寺先輩の好きな人、知ってるんですか?」


「――小野寺さん、あなたよ」


「え……」


「弥勒寺先輩が好きなのは、あなたなの」


 明かされた事実に、俺は空いた口が塞がらなかった。弥勒寺先輩が、小野寺を? じゃあ、あのお見合いの目的は最初から……。

 揺れる俺達の感情を置き去りにして、花森先輩は話を続ける。


「一目惚れ……彼に別れを切り出された時、そう言っていたわ。彼女に恋をしたから、もう君とは付き合えないって」


「そんな……」


 ひどい。小野寺が続けようとした言葉が、俺にも伝わってくるようだった。


「そう! 許せないでしょ?」


「ごめんなさい……」


「小野寺さんが謝ることじゃないわ。私、あなたには一切怒ってないのよ? 怒りを向けているのは――」


 花森先輩が言葉を切った途端、意識から外れていた般若が再び顕現する。


『私は、あなた達の味方よ』


 ……そういうことか。花森先輩の真意を掴めた気がする。

 花森先輩は弥勒寺先輩に怒りを抱いている。だから、彼と対峙している俺達に力を貸してくれようとしているのだ。


「実は先週の土曜、小野寺が弥勒寺先輩とお見合いをしたんです」


「お見合い? 別に彼、お金持ちでもなんでもなかったと思うんだけど……」


「なんか親同士が酒の席で盛り上がったらしくて……小野寺、説明してもらえるか?」


「う、うん……」


 そうして小野寺の体験が花森先輩に語られている間、先輩の激情が阿鼻叫喚の地獄を描き出す様に、俺は冷や汗が止まらなかった。

お読みいただき、ありがとうがとうございます。

面白い、続きを読みたいと思ったら、☆評価や感想などを頂けると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ