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助けたギャルが高嶺の花だった  作者: 大豆の神
そして二人は――
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#80.5 味のしない会食

 結局、彼を”光君”とはっきり呼べないままこの日を迎えてしまった。

 目を合わせず、声の大きさを気にしなければ呼べないことはないけど、それじゃあいつまで経っても進展がない。今日という日が、私の焦りを加速させているみたいだった。


「お父さん、昨日も言ったけど本当にご飯食べるだけだからね」


「……分かってる。変なことに巻き込んだみたいで悪いな」


「反省したならいいです」


 今日までお父さんは、お母さんに口を利いてもらえず、それはもう寂しい数日間を過ごしていた。お見合いが発覚した日なんて、ずっと土下座でお母さんに怒られていたものだ。前に見た、飛鳥ちゃんに怒られている光君にそっくりだと微笑ましかったのは、ここだけの秘密。

 そんなこともあって、私はこれ以上お父さんを追及しないことにした。今日さえ乗り越えれば、またいつも通りの生活が待っているはずだから。


 指定された店は、見るからに格式が高そうな佇まい。しかも、相手方が全額負担してくれるというのだから少しかしこまってしまう。


「見栄を張りたいだけの、大したことない男だから気をつけなさい」なんて蓮ちゃんは言ってたけど、心配だよ……。

 ここにはいない、私の日常を象る人達の顔を思い浮かべて、不安を奥に押し込める。


「なんか緊張するな……」


「うん……」


 お店の人に案内され、襖が開かれる。その先で待っていたのは、白髪が混じった強面のおじいさんと、小綺麗な格好をした男性だった。

 気を使ってそうな見た目だけど、初対面の時点で傲慢そうな性格が見え隠れしているのはどうかと思う。……その太い腕時計、とても高校生の物には見えないし。


「よく来てくれたね。――初めまして、渚さん」


「…………ど、どうも……」


 さらりと呼ばれた下の名前に、ぞくりと寒気が走る。友達じゃない人に、いきなり下の名前で呼ばれるのには抵抗があった。


 ……だって、光君にもまだ呼ばれてないのに。

 正直なところ、こっちの理由が大部分ではある。


「さ、小野寺さん。座ってください」


 おじいさんに勧められ、お父さんと私は腰を下ろす。

 それぞれの目の前に人が座っている構図が、なんだか落ち着かない。そんな私を真正面から見つめている彼こそが、今回のお見合い相手ということらしい。


「いやぁ、お返事いただけて嬉しかった。飲みの席での約束とはいえ、まさか子どもが通っている高校が同じだなんて偶然、そうあることじゃないですから」


「は、はい……そうですね……」


 お父さんは、開口一番から萎縮してしまっている。快活そうな物言いなのに、有無を言わさぬ迫力があるのは、外見のせいなのだろうか。

 ……今、お父さんの気持ちが分かった。この人が強引に迫ってきたら、約束する他ない気がする。


「うちの巧も、その偶然……いや、奇跡に感銘を受けてまして。今日をすごく楽しみにしていたんです」


「やめてくれよ父さん、恥ずかしいだろ」


「何、いいじゃないか」


 ……このやり取り、いるのかな。

 私は、自分の中にこんな冷たい部分があると、初めて知ることになった。


「それでは改めて。もうご存じかとは思いますが、自己紹介を」


「弥勒寺巧です。今日は、このような機会をいただけて嬉しく思います」


 歯を見せて笑う彼の姿を見て、きっとこの人はモテるのだろうと思った。というより、モテている。

 名前を聞いて思い出した。バスケットボール部の元キャプテン、弥勒寺巧。学年問わず人気の三年生で、彼と元野球部の山本先輩が、女子生徒の中ではツートップらしい(クラスメイト談)。すでに推薦で大学が決定しているという噂だ。


「……小野寺渚です。よろしくお願いします……」


 ごめん蓮ちゃん、秘技は出せそうにありません。

 そして私は、この場の空気に飲まれて、手と足だけじゃなく、声すら出すことができなかったのだ。

お読みいただき、ありがとうがとうございます。

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