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助けたギャルが高嶺の花だった  作者: 大豆の神
そして二人は――
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#80 異界からのおはよう

 月が変わって十一月。十一月最初の登校は、俺一人だった。

 小野寺は蓮の家に泊まっているから当たり前なのだが、昨日は一緒にいた時間も長かったので、誰かといないことに寂しさを感じているような気がする。


「おや、少年。朝から湿っぽい顔だね」


「……翔太か。『少年』って、お前は強キャラか?」


「いやぁ、せっかく光の後ろ姿を見つけたのに、普通に声をかけるのは面白みに欠けるなと思って」


「今後は普通に声をかけてくれ」


 なんて文句を言いはしたが、翔太が来てくれて良かった。会話をするだけでも心持ちは変わってくるし、何より安心感がある。


「どうしたのさ、いきなりニヤけちゃって。もしかして、昨日のことでも思い出してたのかい?」


「当たらずとも遠からずだな」


「それ、答えになってないじゃないか」


 たしかに昨日はすごかった。……色々な意味で。

 蓮の家に行くまで小野寺と手を繋ぎ、仮装を見て口を滑らせ、酔った小野寺に迫られた。四人で集まったのに、まるで小野寺との思い出しかないみたいだな。


「またニヤけて……というか、さっきよりも気持ち悪いよ」


「ほっとけ」


 よりにもよって、小野寺のことを考えた瞬間そんな指摘を受けるとは。墓穴を掘る前にこの話は止めにしておかないとな。


「そういえば……小野寺のお見合いって明日なんだよな」


 ……おかしい。話を変えようと思ったのに、肝心なところが変わってないような。こいつ、小野寺のこと意識しすぎじゃないか? (客観的な視点です)


「そうだね。昨日決起集会もしたし、蓮の秘技もあることだし、あとは小野寺さん自身に任せるしかないよ」


「……あぁ」


 俺は力になれているのか、と悩むことがある。生徒会選挙の時もそうだが、本番は結局本人に託すことしかできない。俺にできるのは、それまでの準備だけ。いつか本当の意味で隣に立てる日は来るのだろうか。


 楽しい時間はあっという間と言うみたいに、悩んでいる時ほど現実は待ってくれない。いつの間にか校門をくぐり、教室に辿り着いていた。


「それじゃあ、僕は少し寝るよ。蓮に起こしてもらえなかったから、今朝はボロボロなんだ」


 そう言うやいなや、翔太は自分の席で仮眠の体勢に入ってしまう。そして、十秒も経たない内に寝息を立て始めた。


 寝るの早すぎだろ……。

 翔太の寝入りを見届け、俺も自分の席に腰かける。すると、座った俺を見下ろす人影に気付く。


「あ、小野寺……おはよう」


「お、おはよう!」


「声、裏返ってるぞ……。大丈夫か?」


「大丈夫、です!」


 何か様子がおかしい。酒入りチョコで喉でもやられたか?

 ――そうだ、酒入りチョコ。昨日小野寺は酔っ払っていたんだった。酔うと記憶がなくなる人もいると聞いたことがある。ここは一つ、小野寺の記憶を確認してみるとしよう。


「その……昨日、楽しかったな」


「そ、そそそそそうだね……!」


「仮装なんて人生ですることないと思ってたけど、意外と楽しいもんだな」


「う、うん……! 楽しかったにゃん」


「…………」


 それは覚えてるのかよ!!

 ここが朝の教室で良かったな。昼の中庭だったら、大声でツッコんでいたところだったぞ。


 ……だが、ここが教室でまずかった点もある。さっきの小野寺の『にゃん』が聞こえた一部の生徒から、人間が放てるとは思えないほどの憎悪と怨嗟の念を向けられているのだ。


「……それで、どうしたんだ? 今朝はなんだか様子が変だけど」


 周囲からの敵意に耐えられなくなった俺は、つい本音を漏らしてしまう。


「それは、その、えっと……ひ、ひひひひひひひひひひ」


 何かを言おうとした小野寺が、俺の顔を見たまま壊れたロボットのように軋みを上げる。

 そんな小野寺の後方、教室の扉の影に蓮の姿を確認する。蓮は俺の視線に気付いていないらしく、拳を突き出し「行け、行け!」と口パクで誰かを鼓舞していた。


「お、小野寺……大丈夫か?」


「ひひひひひかかかかかか……」


 ”ひ”から”か”に一歩前進だ。このまま待てば、いつかは小野寺の言いたいことが分かるかもしれない。俺は口を閉じて、次の言葉を待った。


「ひ、ひか……ひひひひひひ……」


 ひかひ? ダメだ、さっぱり分からない。……待てよ。小野寺は、今日ずっと声を裏返らせている。ということは、この”ひ”は”い”の可能性がある。つまり――


「いかい……。小野寺、異界がどうしたんだ?」


「……! ひ、光君のバカ!!」


 初めての罵倒は、素面での初名前呼びと共にやって来た。

お読みいただき、ありがとうがとうございます。

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