#77 寒いなら、手を繋げばいいじゃない
学校が終わり一度帰宅した後、俺は小野寺と合流する為に最寄り駅へと向かった。
飛鳥には帰りが遅くなることは伝えている。季節行事に一人なんて、兄として悪いことをしたと思っていたが、飛鳥も飛鳥で友達の家に遊びに行くらしく、無用な心配となった。
駅へ着くと、すでにロータリー付近に見知った人影があった。
「着いてたなら言ってくれ。そしたら早く出たのに……」
我ながらダサい発言だと分かっている。しかし、待たせてしまったという焦燥感から、つい口を衝いて出てしまった。
「ううん……私もさっき着いたばかりなの。だから間宮君がちょうど現れてびっくりしちゃた」
……それ見たことか。焦った結果、ダサさが上塗りされてしまった。気張りたい気持ちも分かるが、多少は肩の力を抜くべきだと自分に言い聞かせた。
じゃあ行くか、と口を動かそうとしたその時、蓮から一件の連絡がくる。
なんだ? 『翔くんと二人っきりの時間を長く過ごしたいから、あんたは渚を精一杯エスコートしてから来なさい』って、あいつ……。
「どうしたの?」
「いや、ちょうど蓮からだ。準備できたからいつでも来てくれ、だってさ」
「そっか。じゃあ行こっか」
そう言って先導しようとする小野寺に、不自然な動きがあった。
「……小野寺さん? その右手は……」
「夜はちょっと冷えるから……手、繋いだらあったかいかなって……」
大胆なことするなら、最後まで貫き通してくれ……!
目の前で恥ずかしがる小野寺を見て、俺は自分の耳が熱くなるのを感じた。
お陰で体温は少し上がったかな……。
この状況から目を逸らそうと、意味のない結論を出しても無駄だった。小野寺はまだ、俺に向かって手を差し出したまま。寒さか緊張か、震える瞳で俺を見つめていた。
いいのか間宮光。ここで時間を使えば、小野寺に恥をかかせるどころか、体温まで奪うことになるんだぞ?
――体温。そうか、俺は邪な気持ちで手を繋ぐんじゃない。小野寺の体が冷えると困るから、手を繋がざるを得ないんだ! そう思った途端に、妙な納得感に包まれる。
「……そうだな。寒いし、手繋ぐか……。俺、冷え症だから、逆に冷たくなるかもだぞ?」
「そ、そしたら、私がその分もっと温めるから大丈夫……」
それなら手なんか繋がなくても……というのは、さすがの俺でも無粋だと分かる。
そして、俺の言い訳が全く通らないことが同時に証明された。なぜなら、握った手から伝わったのは、思わず安心してしまうくらいの温かさだったからだ。
「――それで? 結局どこにも寄らずにうちへ直行したと……」
「……はい」
玄関で蓮に迎えられ、最初に事情聴取が行われた。なんでも俺達の到着が早すぎたらしく、「それなのにこの顔の赤さはどういうことだ」と問い詰められていたのだ。
「ふーん、どうりで二人が手を繋いでたわけね」
「れ、蓮ちゃん、その、これは……!」
「いいのいいの。私、全然気にしてないから。それに手繋ぐくらい、友達ならなんてことないでしょ? 私だって、小さい時に男の子としたことあるわよ」
「そうだよね! うん、友達だから……するよね……!」
それは小さい時の話で、俺達は今高校生なんだぞ……って突っ込んだ方がいいのか、これ?
フォローになってないフォローをして、蓮は踵を返す。どうやら取り調べの時間は終わりのようだ。
蓮に翻弄された俺達は、手を離すことを忘れ、勉強会で通された和室にやってきてしまった。だからこそ、先に来ていた翔太が、その手元を追及するのは当然の帰結だったのだ。
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