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助けたギャルが高嶺の花だった  作者: 大豆の神
そして二人は――
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#75 ドキドキとドキドキ

 実践しなかった秘技は、ノートにまとめる形で小野寺に託された。

 下校中、隣を歩く小野寺は秘伝の書に夢中だった。


「歩きながら読んでると危ないぞ」


「そうだね……。じゃあ、このページだけ――」


 ……どうやら神様というのは、いつでも俺達のことを見ているらしい。

 小野寺の諦めの悪いセリフからすぐ、彼女の足が通りの電柱へと向く。このまま進めば、衝突は避けられなかった。


「小野寺……!」


 声を発するより先に、足が、手が動いていた。小野寺の腕を掴み、自分に引き寄せる。そのタイミングで、小野寺の手から落ちたノートがバサリと音を立てる。

 そこまで身長差はないものの、華奢な体のせいか、小野寺は俺の胸にすっぽり収まった。


「ま、間宮君……?」


 小野寺は目をぐるぐるとさせ、喉から出た細い声で俺を呼ぶ。

 一方の俺も、アクシデントとはいえ、突然の至近距離に動揺を隠しきれていない。


「あ、その、悪い……。ぶつかりそうだったから……」


 たどたどしい口振りと目線で、俺は電柱の存在を知らせる。釣られて振り返った小野寺が、目前に迫っていた脅威に気付き、息を呑んだ。


「……私こそ、ごめん。読むのに夢中で、全然気付いてなかった……」


「ぶつからなかったから、結果オーライだ」


「ありがとう」


 そう言って柔和な微笑みを見せる小野寺の顔が、いつもより近い。可愛い、綺麗だ、なんて感想が出るより先に胸が早鐘を打つ。


「ねぇ、間宮君」


「なんだ?」


「私の気のせいかもしれないんだけど……」


 そんな導入を経て、小野寺はこう言った。


「……間宮君から、ドクンドクンって音が聞こえるの」


 ……ですよねー。聞こえてますよね、この距離なら。どうする? こんな決定的な証拠がある状態で言い訳なんてできるのか?


「気のせい、かもしれないな……」


 ここは軽い牽制で様子を見て――


「そうだよね……」


「え」


「ん?」


 想定外の反応に、思わず困惑が口から漏れる。

 いやいやいや……この状況で気のせいなんてあるか? 俺達の距離は、紙一枚も通れないほどに密着している。それだけ近くにいて、俺の鼓動が聞こえてないとかありえないだろ! だってすごいドキドキしてるんだから! ……ちょっと待ってくれ、自分で言っててなんか恥ずかしくなってきた。


「実はね、その……私、今すごいドキドキしてるの。それで、心臓がドクンドクンって大きな音を立ててる……。だから、その音と勘違いしちゃったみたい。自分の心音と間違えるなんて、変だよね」


 はにかむような笑みが、高鳴る胸を優しくなぞる。落ち着かない心臓に別の刺激が与えられ、鼓動はますます音を立てていた。

 胸の高鳴りを暴露し、恥じらう小野寺を見て、俺の中の翔太が囁く。


『彼女にだけこんな思いをさせて、男として恥ずかしくないのかい?』


 ――そうだな。不甲斐ない恥ずかしさに比べたら、恋の恥ずかしさなんてどうってことない。それなら俺も、この恥ずかしさを共有しよう。


「……変じゃない」


「そうかな?」


「小野寺は、変じゃない。……実は、俺もドキドキしてるんだ。しかも、自分の音がうるさすぎて、小野寺の音が聞こえないくらいに。だから小野寺は勘違いしてないし、小野寺のドキドキに気付かなかった俺の方がよっぽど変だ」


 言ってみると、案外大したことは……あった。言葉を重ねる度に恥ずかしさが募って、言い終える頃には互いに顔が赤くなっていた。


「そうだったんだ……。じゃあ、お相子。二人とも変だし、二人とも変じゃない。二人でドキドキしてる……」


 俺の胸に耳を当て、「一緒なんだね……」と呟く小野寺に、俺の心臓はさらに足早になっていた。

お読みいただき、ありがとうがとうございます。

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