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助けたギャルが高嶺の花だった  作者: 大豆の神
そして二人は――
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#70 いつもになるのは少し先

今日から新章です。

 生徒会選挙も終わり、再び元の――いつもの生活が帰ってくる。……そのはずだった。


「なぁ、小野寺……大丈夫か?」


「え?! あ、うん……大丈夫だよ……!」


 数ヶ月の付き合いでも分かる。これは明らかに何かある時の態度だ。だが、こうして質問を投げかけてみても、この調子で曖昧な返答がくるだけだった。

 またこうして、毎日一緒に通学できるようになったと浮かれていた気分も、小野寺の不審な様子が気がかりで萎みかけている。


「その……あれだ。もし何かあったら、いつでも話してくれていいからな」


「う、うん……ありがとう……。大丈夫……大丈夫な、はず……だから……」


 その言葉は、果たして俺に向けられていたのか。それとも自分に言い聞かせるように呟いたのかは、俺には分からなかった。


「――ってことがありまして……」


「やれやれ……。光は次から次へと事件を持ってくるね。そういう体質でもあるのかい?」


「なんだそういう体質って。心外だな、俺は健康体だぞ」


「あんたが健康かはこの際どうでもいいのよ。それより問題なのは――」


 蓮は昼休みの中庭を見渡して、この場に欠けているものがあると言外に訴えている。


「……渚ちゃん、どうしちゃったんだろう……」


 この事態には、矢野も顔を曇らせていた。


 今日、小野寺は中庭には来なかった。四限の授業が終わるや否や、俺が声をかける間もなくどこかへ行ってしまったのだ。

 ……今頃、彼女は一人で昼食を食べているのだろうか。気付かないうちに机に入れられていた、手作り弁当の味を噛み締めながら、ここにはいない小野寺に思いを募らせていた。


「何かあるのは間違いないだろうけど、小野寺さんが口にする意思がない以上、僕達が強引にってわけにもいかないね」


「でも、渚って抱え込みそうな性格じゃない? ……どこかの誰かさんと一緒で」


「うっ……」


 蓮からの鋭い指摘に漏らした、苦悶の声が矢野と被る。

 ……おい、矢野。お前もそういうタイプなのか?


 ――そういえば、生徒会選挙の出だしは矢野が中庭に来なかったんだったな。その背景を考えると、さっき翔太が言っていた『次から次へと』も納得できるというものだ。……どうして俺の周りで起きるのかは、全く見当もつかないが。


「……ここに来ないってことは、俺達との接触を避けてるってことだよな?」


「でも、今朝はあんたと登校してたんでしょ」


「たしかにそうだな……」


 一貫しているように見えていたが、実はちぐはぐな行動を取っているのかもしれない。――そしてそれこそが、解決の糸口になり得る可能性を秘めていたのだった。


「それってさ……渚ちゃん自身も言おうとしてるかもしれないってことだよね!」


「断言はできないけど、可能性はあるね」


「事情を話してもらう、相談してもらう為には、あと一押し必要だな……」


 何か方法はないかと、俯いた時に閃いた。


「いけるかもしれないぞ」


「どうするつもりだい?」


 訝し気な翔太に、俺は手に持つ容器を掲げる。


「この弁当は、小野寺お手製の弁当だ。俺のリクエスト品を必ず一品入れてくれて、一食五百円と破格の値段」


「なんでいきなり惚気るの……?」


 枕のつもりが、矢野にすごい勢いで引かれてしまった。……たしかにちょっと気持ち悪かったかもな。


「麗奈、それは光の悪癖よ、覚えておきなさい。……それで、その愛妻弁当がどうかした?」


「…………愛妻かはさておいて、だ。毎日昼前にこれを受け取って、空になった弁当箱を小野寺に返すんだ」


「え……作ってもらって、洗わずに返すんだ……」


「呆れたわね……」


「光、それはどうかと思うよ……」


 あれ? おかしいな……。話せば話すほど俺の立場が危うくなってないか? 俺は洗って返すって申し出たからな! けど、それでも小野寺が譲らなかったから、お言葉に甘えただけであって……。断じて! 断じて当たり前だとは思っていない!


「――そうじゃなくて! ……俺が言いたいのは、返す時に小野寺に絶対会えるってことだ」


「そういうことか。言われてみればそうだね」


 翔太、お前の物分かりが良くて助かったぞ。

 残りの面々にも伝わったか、目を向けてみると――


「冗談よ、本当に光が甲斐性なしだなんて思ってないわ。ね、麗奈?」


「う、うん! きっと何か事情があるんだなって信じてたから……!」


「……本当か?」


「もちろん!」


 ……じゃあ、なんで二人は目を逸らしているんだ……?

 たった一日で、俺の信用イメージは相当下落したみたいだ。

お読みいただき、ありがとうがとうございます。

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