#69 五人でかかればLサイズなんて
「それでは、麗奈の書記当選を祝して……」
「乾杯!」
蓮の音頭に合わせて、チンという甲高い音が和室に響く。
当選結果の発表日から一週間後、俺達は打ち上げを行っていた。
矢野たっての希望で、開催場所は蓮の家に決定し、榊原家の人間である蓮が音頭を担当することになった。
「ちょうど一週間経ったこのタイミングで、全部の部活が休みになるなんて運が良かったね。勉強会様様だよ」
「そうね。じゃなかったら、私と翔くんは夜からの参加だったわけだし」
矢野のバイトがなくて部活組の活動がない日、というのは元々存在しなかった。だから当初は、翔太と蓮は後で合流する予定だったのだが、教職員総出の勉強会とやらで休暇が与えられたらしい。
「皆で集まれて良かったよ! 今日を逃したら、いつ揃うか分からなかったから!」
「平日は麗奈ちゃんのバイト、土日は翔太君が練習で蓮ちゃんも応援があるもんね……」
「蓮のあれは自主的なものだ。予定があるってなったら、翔太を置いてきてくれるさ」
「そこは僕も連れていってほしいかな」
控えめに手を上げた翔太だったが、すぐに「まぁ、無理なんだけど……」と力なく腕を下ろした。
それにしても、土日も活動があるなんて、運動部というのは過酷な組織だ。週休二日制を採用していないあたり、ひょっとすると真っ黒なのかもしれない。
「で、で! これはもう食べてもいいのかな?」
矢野が指差したのは、俺達が取り囲む八角形の薄い箱。二つ並んだそれが、机の上に鎮座している。
「よし、乾杯も済ませたことだし、早速食べるとするか」
「待ってました!」
箱の中身はピザだ。これは、矢野とファストフード店に行ったあの日から決めていたことだった。
彼女にジャンキーな食べ物を知ってほしい。そんな老婆心に突き動かされて、今回のメニューは俺が奢ることにした。太っ腹な振る舞いの代償として、財布はもちろん薄くなっている。
それでも――
「うーん、おいしい! チーズってこんなに伸びるんだ!」
こうして飛び切りの笑顔を見せてくれるなら、安いものだと思った。
あの日以来、矢野はすっかりいつもの調子だ。気遣いの結果だとしても、それを確認しようとするほど俺も愚かじゃない。それに、どうやら本気で手伝おうとしているらしく、先日は俺が小野寺とどこまで距離を縮めたのかと詰め寄ってきた。
……心強い仲間だとは思うが、暴走気味なところがあるから心配なんだよな。
「――間宮君! 早く食べないと無くなっちゃうよ……!」
小野寺の声で我に返ると、残されたピザは残り数ピースになっていた。
……嘘だろ、高校生ってまだまだ食べ盛りなのか?
この調子だと、追加注文が視野に入ってくる。俺は残りのピザを口に運びながら、財布がクリスピーにならないかと不安を感じ始めていた。
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