#68.5 それぞれのXデー③
次回の打ち上げを経て、生徒会選挙編は終了です!
まとめて読んでほしかったので、今日は二話更新です。
私、矢野麗奈は今日思い人にフラれた。負け惜しみを言っていいなら、最初から分かっていたことではあったのだ。
……だって光君、分かりやすすぎるんだもん。
私の好きな人――間宮光君が、私じゃない女の子を好きだって。時間がほしいって言われた時は、もしかしたら……なんて思ったけど、結果はこの通り。
それでも伝えたかった。勝手かもしれないけど、伝えないで後悔するより伝えて玉砕した方がマシだと思ったから。けど――
「結構しんどいもんだなー……」
フラれるのも楽じゃない。世の中には、アタックしてなんぼという人もいるらしいけど、私には到底真似できそうにない。
慣れない帰路というのもあってか、足取りは軽快とはいえなかった。
今日は、本当に色々なことがあった。
生徒会選挙の結果が発表されて、お母様が学校に来て、それで……。人生のビックイベントをぎゅっと詰めたみたいな、そんな一日だった。
……今日、お母様と話が出来て良かった気がする。お陰でこっちの帰り道を選択することができた。
「こっちの電車乗るのも久しぶり……かな?」
日数で言えば、大体五十日。それだけあれば、新しい生活にも慣れてしまうものだ。
それに、ここ一ヶ月は駆け抜けるように日々が過ぎていった。文化祭に勉強会に定期テスト、生徒会選挙。前のことを振り返る余裕がないくらい忙しかった。
また慌ただしい日々になれば、この心の傷と向き合わなくても済むのにな……。
踊り場で、私は無傷のフリが出来ていただろうか。光君は、告白を拒否したことを気に病まないでいてくれただろうか。
あの日の告白は、ほとんど勢いだった。初めは光君がどう思ってるのか聞くだけのつもりだったのに、思いが溢れて、伝えなきゃって焦り出しちゃって……。
電車に揺られているせいか、情緒も行ったり来たりしていた。
目的の駅まであと少し。考えるのは程々にしないと。
「けど、さすがにあれはなかったかな……」
今思えば、このわがままな振る舞いはお母様譲りなのかもしれない。
そんな結論に辿り着いたのは、降車駅のホームに降りてからだった。
「ただいま……」
無駄に荘厳な扉を開いて、私は帰宅を知らせる。といっても、誰かに認知してほしいわけじゃない。家に帰った時の癖、みたいなものだ。
相変わらず、コテコテの装飾だな……。
意匠を凝らすのはいいと思うけど、今をときめくギャルとしては無骨すぎるんじゃないかと思う。もっと可愛い感じで――
「あら麗奈、帰ってきてたの」
屋敷で最初に顔を合わせたのは、お母様だった。
元々、お母様に用があって帰ってきたから、ここで会えたのはラッキーだ。
「呼び鈴を押してくれたら良かったのに」
「一応、お忍びで帰ってきたから……」
「そう。……それで、何か用かしら?」
……察しが良すぎるのもどうかと思う。けど、その一言で、やっぱりこの人が私の母親なのだと実感した。
「少し、いいかな……」
「それなら、麗奈の部屋に行きましょう」
お母様の後について、部屋に向かう。
驚くことに、部屋は当時のままだった。家具も香りもそのままで、床には埃一つ見当たらなかった。
「掃除、させてたの?」
「ここの掃除は私の担当なのよ。皆に無理言ってやらせてもらっていたの。……いつ麗奈が戻ってきてもいいようにって」
本当にこの人は勝手だ。それならあの時、飛び出した私を追いかけてくれれば……いや、積もる話は今度にとっておく。今日話したいのは、今のことだから。
変わらない位置にあるソファに腰を下ろし、小さく呟いた。隣に座るお母様にしか聞こえないような声で。
「私ね、今日フラれちゃったの」
「そう……可愛く産んだつもりだったけれど、光君のお気には召さなかったみたいね」
「私も顔には自信が――って、え?! なんで光君にフラれたって知ってるの?」
いきなり図星を突かれて、私は大慌てで顔を拭う。
「ふふふ、別に顔に書いてあるわけじゃないわよ」
「じゃあなんで!」
「見てたら分かるものよ。私は麗奈の母親で、昔は恋する乙女だったんだから」
それってやっぱり、顔に書いてあるってことじゃ……。
「ねぇ、聞かせてくれない? 麗奈が何を感じてどうやって好きになったか」
それから私は、お母様に全部を話した。文化祭で光君に助けてもらったこと、少しだけど一緒に文化祭を回ったこと。転校した先で光君と再会して、同じクラスになったこと。光君の友達と仲良くなって、一緒に勉強会をしたこと、同じ夜空の月を見上げたこと。
「光君はね、いい生徒なんだ。もう少し勉強する時間があったら、もっといい点が取れてたはず!」
「きっと先生も良かったのね。麗奈と渚さんに教わるなんて、光君も贅沢者ね」
「それでテストが終わって衣替えが始まって、生徒会選挙が開催されるって知ったの……」
そう、このイベントが私の分岐点だった。私の力になりたいって光君が言ってくれなかったら、今日の当選はなかったかもしれない。
皆は力を貸すつもりだったかもしれないけど、私が頼れなかった。それどころか、立候補したかも分からない。もちろん、協力してくれた皆には感謝してる。それでも、一番に声をかけてくれた彼に心が動いたのは間違いなかった。
そこからはあっという間だった。光君と話す度に心が弾んで、気付けば彼のことを目で追っていた。
休日に会った時はびっくりしたけど、それより嬉しさが勝っていて。二人っきりで話していたら、気持ちに抑えがきかなくなっちゃって――
「――あ……私、フラれちゃったのか……」
あの日思いが溢れたみたいに、目元から涙がとめどなく流れてくる。
今まで蓋をしていた気持ちが決壊して、止めたくても止まらなかった。
「私、泣きたかったわけじゃ……来週からはいつも通りで、光君の恋を手伝うって、そう約束したのに……」
外交の場、なんてよく分からない言い回しが口をついたのは、私の傷を彼に見られたくなかったからだ。もし顔を見られてたら、この涙は学校で流れていただろうから。
「頑張ったのね。……麗奈、女の子はね、恋をする度に強くなるの。色んなことを経験して、さらに魅力的な人間になって……そうやって自分に磨きをかけていくのよ。それに――」
お母様は一度言葉を切ると、私の頬を指で拭ってくれた。
「期限は来週なんでしょ? それなら今日は目一杯泣きなさい。土日でゆっくりすれば、目元も気持ちもすっきりするから」
「ここはあなたの家だし、私はあなたの母親なの。満足いくまで泣いて、それからまた話せばいいわ」
私の頭を撫でながら、温かな声色でそう言ったお母様の目元は、ちょっとだけ赤みを帯びていた。
お読みいただき、ありがとうがとうございます。
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