#59 俺達のバックには商店街がついている
矢野への返答――保留を経て、俺達は選挙運動へ向かう。目的地は、校門前だ。
昇降口で靴を履き替え、校門へ足を向けると、俺達以外の面々は集合済みだった。
「あ、間宮君。麗奈ちゃんも!」
「先に来ていたって聞いたけど、どこに行っていたんだい?」
俺が先に登校していたことは、小野寺から伝わっていたらしい。となると、少し言い訳が難しい状況ともいえる。先に学校に到着していた俺が、ギリギリになって矢野と一緒に現れる。……あれ? これってひょっとしてめちゃくちゃ誤解されるやつじゃないか?
「……悪い。ちょっと今後の話というか――」
「どこでもいいけど、遅れかけたんだからご飯を奢りなさい。――それで許してあげるわ」
割って入ってきた蓮のナイスアシストによって、話はうやむやに決着を迎える。
昨日今日と、蓮には随分と助けてもらった。俺の視線に勘付いた蓮は、こちらを一目見てふいと顔を背ける。意図としては、『これで貸りはなしよ』といったところだろうか。
「私の選挙なのに、本当にごめんね! よーし! 今日からまた気合入れて頑張るぞー!」
「投票日まで、もう二日しかないんだもんね。悔いが残らないように頑張らないと……!」
矢野の勢いに釣られてか、小野寺も気合十分といった様子だ。
俺も気合を入れ直さないとな。浮ついた足を地面に付けて、真っ向から石橋と戦う。そして勝つんだ、俺達全員で。
「あ、そうだ。遅くなってしまったけど、ついに例のあれが完成したよ」
「本当か?」
「お待たせしたね。さすがに印刷もするとなると、少し時間がかかってしまって……」
そう言って、翔太が鞄から取り出したのは――
「わぁ! すごい、私じゃん!」
今回の選挙の為に用意した、特製ポスターだ。
紙面の矢野は、隣の席に座るクラスメイトという構図で、こちらに微笑みかけている。コンセプトは、”距離感の近い生徒会メンバー”。他の学内組織と比べて一線あるような生徒会だからこそ、矢野が取るコミュニケーションが輝くのではないかと考えたのだ。
「まさか、商店街のイベントの度にポスターを作らされていた経験が、ここで活きるなんてね」
人生は何があるか分からないね、と翔太は俺にウィンクを飛ばす。
「……そうだな」
俺だって思いもしなかった。高校生になっても、翔太と蓮以外とは特に関わることもなく、何事もなく卒業するだけだろうと高を括っていた。しかし実際は、ナンパには遭遇するし、手作り弁当は作ってもらえるし、異性と二人で出かけたり、看病されたり、文化祭を回ったり月見をしたり……。友達が増えただけじゃなくて、もう一度踏み出そうと、前に進もうと決心することができた。
現実は想定していたよりも、ずっと劇的で刺激的だった。
『変化があると、いつもの景色も違って見えるんだよ』
いつだったか、翔太がそんなことを言っていた。
……今なら分かる気がする。きっと夏休み前までの俺には想像できないだろう。こうして仲間に囲まれ、一つの目標に向かって駆けているなんて。
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