表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/123

#56 まさか呼び出す側に回るとは

「まずは連絡だな……」


 俺は少ない連絡先一覧から、最近追加された人物の名前を選択する。


「あ、そういえば……」


 表示された履歴を見て、過去に何度かやり取りをしていたことを思い出す。やり取りと言っても、些細な内容がほとんどだ。『選挙手伝ってくれてありがとう! 頑張るね!』『俺達も全力を尽くす』というメッセージを最後に連絡が途絶えていることが、なぜか今は胸を締め付けていた。


 ……別に、LINEで会話しないことくらいよくあることだろ。なんなら、俺はこれまでほとんど使ってこなかったんだし。それに、この時はまだ直接話をしていたんだ。……この時は。

 気付けば自分が人肌恋しい性分になっていたと知って、自虐的な笑みが漏れてしまう。こんな風に変わったのは――あるいは()()()のは、やはり小野寺のおかげなのだろう。


「俺が好きなのは――」


 そうやって結論を急ぐ必要はない。たとえ心の内で決まっていても、言葉にするにはまだ早いような気がしていた。だからこそ、ここで矢野に連絡を取ることにしたのだ。


『明日の朝、選挙運動前に学校で会えないか? 話がある』


 少し簡潔すぎただろうか。いや、下手に飾り立てた文章を書く方が、かえって決心が鈍ってしまいそうだ。

 俺は一度深く息を吸い、送信ボタンをタップする。


「…………はぁー……」


 それと同時に停止していた呼吸が再開し、口から一気に空気が放出された。

 後には引けないという背水の意識と、一歩前進できたという前向きな意識がせめぎ合っていた。


 ――しかし、それも束の間。矢野からの返信を携帯が知らせる。


『分かった。どこに行けばいいかな?』


 まずは了承を得た。次は、場所の選定だ。


 最初に思いついたのは、教室。クラスメイトの話によれば、早朝や放課後の教室というのは告白の鉄板らしい。これまで幾多の告白が行われ、玉砕してきたとか(泣きながら話していたし、実体験なのかもしれない)。告白――ではないにしろ、それに近しい話をするわけだから、候補としては悪くないだろう。

 ただ、一つ問題があるとすればこの時期が選挙期間だということ。早めに集まることができたとしても、いつどこで人が現れるか分からない。……石橋に廊下で声を聞かれでもしたら、最悪なんてもんじゃない。


 呼び出し絡みで考えると、あとは体育館裏とかだろうか。これは表の青春というより、裏の青春だな。『来てくれてありがとう』が『よく来たなワレェ!』となり、『好きです!』は『ぶっ潰す!』となった血みどろな青春が目に浮かぶ。……うん、却下だな。


 他に候補を挙げるとすると、中庭か――

 突如俺の思考に、新学期最初の日の光景がフラッシュバックする。


「――屋上」


 ……まぁ、どうやって入ればいいか分からないけど。俺は小野寺みたいに優秀な生徒じゃないから、鍵を手に入れることは難しい。俺が屋上清掃をするって言って信じる教師なんていないからな。

 けど、中に入れないことを抜きにしても、あそこは人の通りが少ない。話をするには持ってこいの場所に思えた。矢野には悪いが、立ち話に付き合ってもらおう。


『屋上階段の踊り場って分かるか? そこに来てほしい』


 ちなみに屋上には入れない、と補足を加えて送信ボタンに触れる。もう、呼吸は整っていた。

お読みいただき、ありがとうがとうございます。

面白い、続きを読みたいと思ったら、☆評価や感想などを頂けると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ