#50 ピュア×ジャンキー
「あ! いたー!」
出口付近で待っていると、慌ただしい足音と共に矢野が姿を見せる。
夕暮れ時だというのに、矢野のほとぼりはまだ冷めていないようだ。
……そういえば。矢野の服装は、学内で見る派手なものではなかった。服の好みはそれぞれだと思うが、それしても落ち着いた装いだ。
レースを基調とした白いブラウスに、花柄のフレアスカート。夕焼けを柔らかく反射して、これまでにない楚々とした印象を与えていた。
「待っててって言ったでしょ?」
「悪いとは思ってるが、ここで待ってたから許してくれないか?」
さすがに周りの目が怖かったとは言えないしな。
「もう、しょうがないな。今回は大目に見てあげる!」
次はないからね、と矢野は言うが、彼女の性格的に何度でも許してくれそうな気がしてしまった。
「せっかくだしさ、どこか遊びに行かない?」
「どこかって候補はあるのか?」
「うーん、ない!」
満面の笑みで言うことか、それ……。
「でももう夕方だし、あんまり時間もないね」
「なら、軽く飯でも食べに行くか? 家の夕飯もあるから、がっつりは食べれないが……」
可愛い可愛い我が妹、飛鳥が作ったご馳走が待っているからな!
「そうだ! 行ってみたいとこがあるんだよね!」
そして、浮足立った矢野に連れられること十数分……
「行ってみたいとこって、ここか?」
「うん! そうだよ!」
俺達の目の前に佇むのは、ファストフードのチェーン店だった。
件のライブハウスが近所ということもあって、この店舗はよく利用している。まさか、誰かとここに来ることになるとは思わなかった。
「私、憧れだったんだよね。こうやって誰かとこういうお店に入るの」
矢野の口振りは、まるで大きなステージを夢見るアイドルのようだった。そう錯覚するほどに、心の底からの言葉に聞こえた。
彼女の横顔が、俺の胸に大きな渦を巻き起こさせる。
「矢野……」
「ん?」
「――今日は俺の奢りだ」
俺の兄としての全神経が、矢野を”妹”だと認定していた。
「いっただきまーす!」
豪快ながら上品に、矢野はハンバーガーにかぶりつく。
……自分で言ってなんだが、上品にハンバーガーにかぶりつくってどういうことだ? 実際俺の目の前で起きたことだから、そうとしか説明できないのだが……。
「んー、美味しいー!」
頬が落ちると言わんばかりに手を当てる矢野に、俺は思わず質問する。
「ハンバーガー、初めて食べるのか?」
「うん! っていうか、手で直接持って食べるご飯が初めてかも。あ、サンドイッチは食べたことあるよ!」
「さいですか」
それって、ピザとかフライドチキンとか、若いうちしか楽しめないジャンキーな食事を一切知らないってことだよな……。
――生徒会選挙の打ち上げ、俺に食事を決めさせてもらおう。
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