#47 結論は大抵一人じゃ出せない
「――で、考えた案がこれなんだが……」
立候補者の書類締め切りの木曜日、俺は中庭でいつもの面々にルーズリーフを渡した。
そこには、箇条書きではあるが矢野の立候補理由に繋がりそうな要素をまとめている。
「『顔の広さと誰でも気兼ねなく接することのできる性格が、広報活動を兼ねる書記の仕事に適している』か。これは僕も同感だね」
「そうね。麗奈の性格って、皆の架け橋になってくれそうな感じだもの」
「え? なんかちょっと照れるなー……」
当の本人は、余程嬉しかったのかそわそわと前髪を触っている。
実際、昨日の小野寺との話し合いで真っ先に挙がり、さらに共通の意見だったのが性格に関することだ。他にも色々と候補を出したものの、最初に挙げたこれより有力なものはなかった。
「『こう見えて頭がいい』とかも大事かなって思ったんだけど……書記の仕事とはあまり関係ないんだよね」
「テストの成績は、生徒会の仕事の出来には関係ないしな」
「とは言っても、補習で仕事に参加できないというのは避けたいだろう? 使い方によっては活きてくるかもしれない」
やっぱり、話し合いは人数が多い方がいい。自分にない意見や観点のおかげで、昨日よりも進捗を見せている。
「矢野はなんかピンときたか?」
俺達がどれだけ案を出しても、結局その理由を演説で話すのは矢野自身だ。彼女の中で、軸となる何かを見つけることが重要になってくる。
「うーんと、翔太君が言ったみたいに『こう見えて頭がいい』は使える気がするんだ。ほら、私って見るからに勉強できなさそうじゃん? でも実は学年で十位以内とか、ギャップだと思うんだよね」
「成績と見た目は関係ない的な?」と言って、矢野は腰に手を当て胸を張る。その姿からは、ドヤァという効果音が聞こえてきそうだった。
「っていうか、髪染めてても成績が良ければお咎めなしってすごいよね! やるべきことをやってれば、自分が自分でいることを認めてくれるなんてさ!」
――かつて、小野寺は『怒られるから』と髪を染めなかったが、それはおそらく”先生に”ではなく”両親に”だったのだろう。改めて考えてみると、この学校の校則はそこまで厳しいものではない。というより、生徒の自主性を重んじる校風なのだ。
……これって、もしかしたら糸口にならないか?
俺は自分の勘を確かめる為、矢野に質問を投げかける。
「矢野は、この学校のこと好きか?」
「うん! 大好きだよ!」
満面の笑みで告げられた言葉に、胸が早鐘を打つ。……自分に向けられていないと分かっているが、それでも凄まじい破壊力だった。
「何ニヤついてんのよ」
蓮に肘で小突かれ、俺は我に返る。じーっと鋭く目を細める蓮の後ろで、小野寺も同じように訝しむような視線を向けていた。
「むぅ……」
「ち、違うんだ! これは、その、えっと……分かったんだよ! 矢野の立候補理由!」
「え?」
「それなら、早く言いなさいよ」
危機を脱出できた……のかは分からないが、俺はひとまず自分の考えを話すことにした。
「矢野が転校してきてから、まだ一ヶ月程度だ。それでも、この学校を大好きだと言ってくれた。それってすごいことだと思うんだ」
「そうね」
「たしかに……」
「だから俺は、矢野にもう一度考えてほしいんだ。――矢野、大好きな学校に貢献してみる気はないか?」
俺達は、矢野が生徒会に入りたい本当の理由を知っている。この学校にとって必要な人物になることで、いずれ連れ戻しにくるであろう母親に対抗するという目的があることを。
それでも、偽りのない理由が欲しかった。だからこそ、俺は矢野に問う。真っ当に生徒会を目指してみないかと。
「その動機、めっちゃ私っぽいじゃん!」
「これはあくまで、俺の考えだ。矢野の意思にそぐわないなら、おすすめはしないぞ」
「ううん。光君の話聞いて、私やってみたくなったよ! 自分の為だけじゃなくて、皆の為に生徒会を目指してみる!」
すでに矢野は心を決めている。俺達に、これ以上の議論は必要なかった。
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