#45 今日はやけに声が重なる
拝啓 父さん、母さん。どうやら俺は、ここまでみたいです。
冷や汗に滲んだ手を腿の上に鎮座させ、床に正座をさせられているのは、今回の被疑者――つまり俺だ。
俺は居住まいを崩さないよう気をつけながら、頭上の相手を見上げる。
「さて兄さん、ちゃんと説明してもらいますよ」
腕を組んだ飛鳥の背後では、夕飯が湯気を立ち上らせており、それが余計に飛鳥の立ち姿に迫力をもたらしていた。
「えっと、頑張って……?」
この場にいるもう一人の同席者――小野寺は、俺と飛鳥を交互に見やり、動揺を露わにしていた。玄関を開け、五分も経たないうちに同行者がこのザマでは、小野寺も視線を彷徨わせることしかできないだろう。
「こんな時間に女の子を連れて帰宅とは、一体どういうつもりなんですか? まったく、お父さんとお母さんが出張で助かりました」
「それは……俺もそう思う……」
「いいですか? 兄さんはまだ高校生なんです。こういうことは、もっと大人になってからじゃないと」
飛鳥の発言は正しい。よく考えなくても、夜に同級生の女子を家に連れてくるなんてするべきじゃなかった。俺は自分が浮かれていたこと、判断力が欠けていたことを悔いた。
被疑者の罪が暴かれ、残すは判決のみ。しかし、そんな法廷に待ったをかける人物がいた。
「待って、飛鳥ちゃん! その、間宮君は悪くなくて……悪いのは私なの……」
「小野寺さんが、ですか?」
「私が、この後間宮君の家に行っていいかって聞いちゃって、きっと間宮君は断れなかっただけだから……」
「違うんだ飛鳥、悪いのは俺だ。断ろうと思えば断れたし、それでも家まで連れてきたのは俺の責任だ」
俺達の苦し紛れの弁明に、飛鳥は深いため息を零す。その姿からは、呆れた様子がありありと伝わってきた。
「……分かりました」
飛鳥の声音が、心なしか和らいだように感じる。それに安堵して、俺は自分に有罪判決を下してもらおうと飛鳥に詰め寄った。
「本当か? 全部俺が悪いんだ! だから、小野寺は何も悪くなくて――」
「分かりました。ええ、分かりましたとも。――二人が好き合ってるということがはっきりと」
「へ……?」
裏返った声が、俺と小野寺の口から漏れる。
とにかく、ひたすらに顔が熱くなっていた。
「あ、飛鳥っ?! な、何言ってるんだ!」
「そ、そうだよ飛鳥ちゃん! 私達が、その、す、好き合ってるなんて…………」
頬を赤らめながら抗議する小野寺の声は、尻すぼみに消えていく。
そんな小野寺の顔を見て、俺は自分の顔がどれだけ赤くなっているかを悟った。
「はぁ、別に認めてもらおうとは思ってないですよ。ただ、私からはそう見えたってだけの話です。……それで、何があったんですか?」
なんだか腑に落ちない結末ではあるが、すでに飛鳥は事情を聞く姿勢に入っている。
俺は火照りを冷ましながら、飛鳥に今日あったこと、そしてその為の会議をしようとしていたことを話した。話が終わる頃には、俺と小野寺の顔から熱は去っていた。
「事情は分かりました。けど、それって電話で済むことじゃないですか?」
「あ……」
俺達は声を揃えて、互いに顔を見合わせる。
電話という手段を日頃使わないからこそ、その選択肢が頭から抜け落ちていた。
俺の(あるいは俺達の)心中を察してか、飛鳥は再びため息を零すのだった。
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