#41 選ばれたのは――
そろそろ現実の時期が、本編の第一話に追いつきます。
「それで、どの役職に立候補しようとかは考えているのかい?」
「うーん……。皆にこの話をしようと思ったら、そのことばっか考えちゃって……。まだ決めてないんだよね」
「立候補者が書類を出すまで、あと二日だぞ? 今のうちに決めておいた方がいいんじゃないか?」
悠長に構えていて選挙に参加できませんでしたじゃ、悔しい以前の問題だ。
「それなら、生徒会の役職についておさらいしようか」
小野寺が取り出したのは、最上先輩が作成した”生徒会選挙全書”のプリントだ。
あの時、最上先輩は盛り上げ隊長だと言っていたが、後日選挙管理委員会の委員長だということが判明した。ということは、この生徒会選挙の影でもあの先輩が暗躍していることだろう。
「そのプリント、先週配られたやつじゃなかったか?」
最上先輩が教室に乗り込んで来た日の放課後、担任から全校生徒に配布されたものだ。そのプリントがすぐさま出てきたことに俺は驚いた。
「うん。だって、麗奈ちゃんがいつ来るか分からなかったから。話してくれた時に必要になるかなって思って、ずっとポケットに入れておいたの」
「……そうか」
俺は驕っていたのかもしれない。自分を起点に矢野を助ける計画を始め、そして今日矢野の本心を聞くことができた。俺が矢野の力になりたいから、友達の力を借りている――そんな考えに少なからずなっていた。だが、小野寺も翔太も蓮も、自分の意思で自分の友達を助けようとここに立っている。きっと俺が頼まなくても、彼らは矢野を助けたはずだ。今回の生徒会選挙に向けて、俺は気を引き締め直した。
「役職としては、生徒会長、副会長、会計、書記だね。庶務は雑務が基本だから、その都度信頼できる人に依頼したり協力を要請してるみたい」
ちなみに最上先輩は、この庶務の依頼を頻繁に受けている頼れる人物だ。本人の元々の顔の広さに加えて、その行動力を買われて肉体労働をはじめとした様々な仕事をこなしているという。あの日最上先輩が盛り上げ隊長として来たのは、おそらくそれの類だ。
どんな仕事も自分の糧になるから、どんどん任せてほしいらしい(本人談)。
「田淵先生が言っていた通り、一年生で会長になるのは難しいと思うから、会計か書記が狙い目だね」
「あわよくば副会長……っていうのは無理かな?」
「副会長は生徒会長の代理だし、一年生が任されることは少ないんじゃないかな。それに候補者が二年生となると、相手としては脅威だ」
現状、俺達の中では会計と書記の二択に絞るのが妥当だという結論になっている。ここは、矢野が中庭に現れるまでで事前に話し合っていた部分だ。
「あとは仕事内容だけど、会計は生徒会費の管理が主な仕事かな。部費とかの出納を確認するのも会計が担当するみたいだよ」
「生徒会の家計簿をつけるってわけね」
「あぁ。生徒会のお母さんってところだな」
蓮の発言を受けて、我ながら上手い例えを出したつもりだったが、肝心の矢野は難しそうな顔を浮かべていた。
「お母さんって家計簿をつけたりするものなの……?」
「食費とか管理したり、家庭によっては父親のお小遣いを決めていたりな」
「僕の家はそのタイプだね」
「お小遣い……」
しかし、どう言葉を尽くしても矢野の表情が和らぐことはなかった。
……もしかして、金持ちは家計簿とか自分でつけないのか?
「あ! じいやが書いてたあれか!」
じいや恐るべし。
「次は書記だね。基本的には議事録を書くことが仕事みたい。それと、生徒会が発行する新聞とかの執筆が大きな仕事かな。他にも、イベントの告知だったりの広報活動をするんだって」
「新聞作れるの面白そう!」
書記の仕事内容に、矢野は喜色を示した。
矢野は今、最上先輩ほどではないものの、学校中に注目されている生徒だ。彼女の顔の広さを考えれば、広報を兼ねる書記の仕事は適任だといえる。
「――じゃあ確認だ。矢野はどの役職に立候補したい?」
「もちろん! 書記に立候補するよ!」
Vサインを俺達に向け、矢野は白い歯を見せる。
その笑顔に、昨日までの陰はもうなかった。
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