#38 伸ばされた手を、次は誰かに
「麗奈が今日いないのは、そのせいってことね」
「そういうことに、なりますね……」
じっと目を細める蓮に、俺はたじろぐことしかできなかった。
――矢野はクラスの人気者だ。それ故に、昼食の誘いは先着制という暗黙の了解が生まれていた。
四限が終了し昼休みに入った瞬間、彼女を一番早く誘えた者が、共に昼食を食べる権利を獲得することができる。もちろん、矢野自身に断られるという例外も存在するが、これまで誘いを断られたという話は聞いていない。
このルールにおいて、俺と小野寺の席配置は有利に働いた。なぜなら、同じ誘いをする人間が矢野の一番近い席を陣取っているからだ。”暗黙の”とはいえ、ルールはルールだ。……卑怯とは言わせないぞ。
しかし、今日の中庭に矢野がいないのは、俺が誘えなかったということではなく、件の――生徒会選挙に関することが原因だ。
「さて被告人。どうして踏み込んだ質問をしたのか、聞いてもいいかな?」
翔太の問いに、俺は頷くことで応じる。
「選挙の話をしてる時の矢野は、なんか変だったんだ。いつもの元気な感じじゃなくて、何か思い詰めたみたいな顔してて……」
あの表情が、選挙に起因しているのかは分からない。だが、生徒会選挙に際して、矢野が言葉を濁したのは事実だった。
「俺は矢野の力になりたい。きっと――いや、確実にエゴだけど、あいつに暗い顔は似合わないと思ったんだ。……頼む! 力を貸してくれないか?」
こちらを見つめる翔太と蓮、そして小野寺に頭を下げる。
挫折を経験した俺は、友達に”前への進み方”を教えてもらった。だからなのかもしれない、俺も誰かに――友達に手を差し伸べたいと思ったのは。
話を聞いた三人は、それぞれに反応を示した。
「私も、麗奈ちゃんには笑っていてほしいな。エゴだったとしても、友達の力になりたいって気持ちに嘘はつきたくないよ」
「……はぁ。そんなことしなくって、私達は協力するってば。麗奈はもう、私達の友達なんだから」
「光の本心も聞けたことだし、僕も協力を惜しまないよ。……ただ、それにしても他の聞き方があったんじゃないかな?」
「あぁ、そうだな。……皆、ありがとう」
不用意に踏み込んだことは、しっかりと反省しなきゃいけない。そのうえで、もう一度矢野と言葉を交わす準備をする必要がある。
まずは、矢野が再び中庭に顔を出してくれるようになるまで。どのくらいあるか分からない『ちょっと』の時間で、俺達は彼女の為に何が出来るかを話し合った。
お読みいただき、ありがとうがとうございます。
面白い、続きを読みたいと思ったら、☆評価や感想などを頂けると励みになります。




