#37 何をしたくて、何を求めて
――仲秋と呼ばれるこの時期には、学校の命運を左右するともいえるイベントが待っていた。
「これから二週間は、生徒会選挙期間となる! 立候補者の受付は来週までだから、各自準備を済ませておくように! それじゃあ、僕はこれで!」
伝えることだけを伝えて、最上先輩は踵を返していってしまった。
直前までの騒がしさのせいか、教室に訪れた静けさがより鮮明に感じられた。
「と、いうことだ。うちの学校では、全学年に枠が設けられている。一年で生徒会長になれるとは思わん方がいいが、書記や会計になって、早めに生徒会の仕事を経験しておくのもいいだろう」
入れ違いにやってきたゴリラが話をまとめ、そのまま朝のHRに移行した。
HR中、最上先輩と思しき人物の声が聞こえてきたのは、幻聴だということにしたい。……壁貫通するとか、どんだけ声でかいんだよ。
HRが終わり、生徒が一限目の支度を始める中、背後からの声が鼓膜を震わせる。
「私、やってみようかな……」
そう呟いたのは、小野寺ではなく――矢野だった。
「本気で言って――」
振り返りながら尋ねようとした俺は、矢野の表情を見て口を噤んだ。
彼女の眉間には、僅かだが皺が寄っており、聞かずとも矢野が本気で考えていることが分かったからだ。
「麗奈ちゃん、立候補するの?」
「うーん……立候補しないと生徒会には入れないんだもんね……」
「そりゃあな。なんかやりたいことでもあるのか?」
「そういうわけじゃないんだけど……生徒会に入れればなんでもいい、みたいな……? よく分かんないよね、あははー……」
こんなにも歯切れの悪い矢野は、初めてだ。しかし、理由はどうであれ本当に生徒会を目指すのなら、友達として協力しない手はない。
「矢野が立候補するって言うなら、俺達は力になるぞ」
翔太と蓮に確認は取っていないが、こういう時は力強さが大事だからな。二人もきっと、大目に見てくれるに違いない。
というか、喜んで手伝ってくれそうだし、むしろ声をかけない方が後で文句を言われそうなものだ。
「本当……?」
「うん! だって私達、麗奈ちゃんの友達だもん!」
弱々しい矢野を鼓舞するように、小野寺が手を包み込む。
「ありがとう」
そう言って微笑む姿からは、いつもの矢野が覗いていた気がした。
「……その、差し支えなかったらでいいんだが、なんで生徒会に入りたいか教えてくれないか? その方が俺達も協力しやすいし、結果に繋がると思うんだ」
俺は意を決して、矢野に踏み込んだことを聞いた。お節介だとは思うが、暗い矢野をこれ以上見ていられなかったのかもしれない。
いつも明るく振舞う彼女が、どうして陰りを帯びているのか。生徒会に入る以外の方法で、それを解決することはできないか。その可能性を模索したかった。
「……ごめんね。ちょっと時間貰っても、いいかな……?」
力なく笑った矢野の一言は、俺の心にぽつんと影を落とした。
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