#35 妹からも学ぶことが多い
今朝は身支度に一工程追加された。袖を通したのは一学期以来だが、背が高くなったり肩幅が大きくなったりして着られないということはなさそうだ。
「兄さん、私は思うんです」
「どうしたんだ?」
「ワイシャツ姿の清潔感溢れるところも素敵ですが、こうしてブレザーを着てかっちりとした姿も捨て難いなって」
「……どうしたんだ?」
俺はつい、同じ疑問を飛鳥に投げかけてしまう。
「妹としては悩ましい問題なんですよ。夏服と冬服、どちらの方が兄さんの魅力を引き出せるのかというのは」
「そ、そうか……」
飛鳥は顎に手を当て、神妙な面持ちでこちらを見つめている。
正直、俺は飛鳥が何を言ってるのかさっぱり分からなかった。学校に行ってしまえば、制服なんて全員が着用している。その中で、着こなしがどうとか魅力がどうとかを議論する余地はないだろうに。
「本当に分かってますか? 兄さんはこれから、冬服で初めて小野寺さんと顔を合わせるんです。第一印象でがっかりされては、兄さんも嫌でしょう?」
それは……そうかもしれないな。だが、それこそ今さらな気がする。小野寺とは同じクラスだったわけだし、冬服自体は夏休み前までで見慣れているはずだ。
「はぁ、兄さんは何も分かってないんですね」
これ見よがしにため息を吐くと、飛鳥は人差し指を立てて俺の顔に押しつけてきた。
「兄さんと小野寺さんに接点が生まれたのは、最近のことですよね。いいですか? 同じクラスだからといって、女の子は興味のないその他大勢の男子のことなんて、これっぽちも見てないんです」
そこまで言われたら、兄さん悲しいぞ? これを聞いたら、飛鳥の同級生も卒倒ものだな。いや、飛鳥に群がる羽虫どもだ。同情する必要はないか。
――ではなくて。実際に女子中学生をしている飛鳥が言っているのだから、あながち間違いというわけでもないのだろう。そう考えると、飛鳥の話を少しは真面目に聞こうという気になってきた。
俺はおざなりに着ていた上着を整え、飛鳥と相対する。
「ってことは、俺の冬服は実質初披露って思った方がいいのか?」
「そうです。後で全身写真は個人的に送るとして、まずは第一印象です」
何か不穏な発言が聞こえたような。しかし、俺は今教えを乞う立場。些事で先生の邪魔をするわけにはいかない。
「やはり、ネクタイはしっかりと締めるべきですね。着崩した格好をする前に、正しい格好をする方が先です!」
「その心は……?」
やけに感情のこもった飛鳥に、俺は恐る恐る尋ねる。
「私の学校には、学ランやシャツのボタンを何個も開けた破廉恥な格好をした人が多すぎるんです! まったく、だらしないったらありません!」
矢野をナンパしていた男達を見たら、きっと飛鳥は気絶してしまうだろうな。飛鳥の初心な発言を聞いて、俺は呑気にそんなことを考えていた。
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