#34 満点を取ると、答案に×がつかない
中間テストが終わり、全教科の答案返却が完了した。
早々に部活が再開された翔太と蓮を除く俺達三人は、近くのファミレスに足を運んでいた。
「麗奈ちゃん、心の準備はいい?」
「もち! ……あー、でもなんか緊張してきた!」
俺の対面に座る先生達は、生徒の結果が不安でしょうがないようだ。
実際、俺の点数は軒並み平均点だ。補修は回避したが、二人からすれば、もう少し取ってほしかったところだろう。
「な、なぁ、先に二人の結果を見せてくれないか? 後から見たら自信が吹き飛びそうだ」
「うーん、別にいいけど」
矢野はそう言うと、返却された答案用紙を取り出し、机上に並べる。
朱色で記された数字は、全体を通して八十前後と好成績だ。さすがは転入試験を突破しただけあって、かなりの出来だった。
「こんな点数、本当に取れるんだな……」
俺は見たことのない数字の大群に、思わず喉を鳴らす。こうして並んでいるのを見ると、まるで自分が収めた功績だと錯覚してしまいそうだ。
「どう? 少しは私のこと見直してくれた?」
「先生、一生ついていきます!」
「……一生?!」
ぼっと音が出そうなほどの勢いで、顔を赤く染める矢野。……あれ? そういうノリじゃなかったのか? 俺はてっきり――
『先生、一生ついていきます!』
『そうかそうか。なら、私と一緒に深き勉学の世界を探求しようではないか! あーはっはっはっは!』
『ひゅーっ! 先生、格好いいです!』
みたいな感じになると思ってたんだけどな。ギャルのノリというのは、いまいち掴めないものだ。
俺は助太刀を求めて小野寺に視線を送る。それに気付いたのか、小野寺は自分の結果を提示してくれた。
「えっ、すご! 噂には聞いてたけど、渚ちゃん頭良すぎだよ!」
矢野の時も十分驚かされたが、やはり現学年一位の点数は目を見張るものがあった。
九十点代という金銀財宝の中で、一際光を放つ百という数字。これまでの人生の、試験と呼ばれるものでこの数字を目にしたのは初めてだった。二人とも、俺に勉強を教えながらここまで仕上げていたのか。
「すっげぇ……」
それ以外の言葉が浮かばず、ただ答案用紙を埋め尽くす丸に見惚れていた。
この点数なら、間違いなく今回の一位も小野寺だ。
「ま、間宮君……」
小野寺に呼ばれ、机上から顔を上げる。躊躇いがちな声ではあったが、その表情は真剣さを感じさせた。
「私もいい点取ったけど、一生ついていきたくなった……?」
「なっ……」
――何を言ってるんだ。そう言おうとしたが言葉に詰まる。
これはそういうノリなのか? それとも……。
俺は真意を窺おうと小野寺を見つめるが、彼女の瞳が潤んでいること以外、何も情報は得られなかった。
女心なんてこれっぽちも分からないんだから、当然といえば当然なのだが。
……考えても仕方ないか。分からないなら、腹を括るだけだ。
「い、一生、ついていきたくなりました……」
観念したとはいえ、言葉にするのは恥ずかしい。
……だってそうだろ! 意中の相手に”一生”なんて言葉使ったら、それこそ…………味噌汁のあれみたいじゃないか。
俺が白旗を上げると、小野寺は「良かった」と嬉しそうに目を細めた。
「じゃあこれで、私達は一生一緒だってことだね! あはっ、それって最高じゃん!」
先ほどの赤面はどこへやら、矢野が明るく場を締める。
矢野がいてくれて助かった。いなければきっと、緊張が解れなかっただろうから。
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