#29 二対一と一対一
中間テストを四日前に控えた土曜日、俺達五人は蓮の家に集まっていた。
テスト一週間前は、どの部活動も原則活動禁止だ。翔太と蓮と、休日に顔を合わせるのは入学以来久しぶりのことだった。
……さすがにデートの邪魔をするわけにはいかないよな。
そうして一人で過ごす休日に、ニナのライブに行ったりしていたわけなんだが。
俺は、座敷に鎮座する光沢のある机――そこで勉強道具を広げる面々に目を向ける。
夏休み前まで、ここに集まるのは俺と翔太だけだった。思えば騒がしい空間になったものだ、と感慨に耽る。
「勉強会を始めるにあたって、一つ確認しておきたいことがある」
やけに厳かな様子で、翔太が口火を切る。
両肘を机上に乗せ、重ねた手で口元を隠す姿は、有無を言わさない迫力があった。
「翔くん……?」
蓮は心配そうに翔太を見つめるが、俺は茶番劇が始まるのだと呑気に構えていた。
「矢野さんは……どっちだい?」
「ん? どっちっていうのは?」
「先生か生徒、どちら側につくかって話さ」
そういえば、約束した時に確認してなかったな。
もし矢野が生徒側だったら、せっかく小野寺が加わったというのに、先生側の負担が増えることになる。翔太からしてみれば、確認しておきたい重大な問題だったわけだ。
「それなら心配いらないよ! これでも私、勉強はできる方だから!」
いえい、と二本指を立てる矢野からは、そんな雰囲気は感じられない。
失礼だとは分かっているが、確認しないわけにはいかなかった。
「……本当に大丈夫か?」
「あ! 私のこと馬鹿にしてるなー? ふふん、これでも私はね、転入試験をしっかりと通過してるんだよ」
「それに、テスト前の時期に転校してきたし……。もしかして麗奈ちゃんって、すごいできる子?」
小野寺の発言で我に返る。たしかに、学期が変わった直後ならまだしも、文化祭が終わったこのタイミングでの転入となれば、一筋縄ではいかないだろう。
その壁を乗り越えた矢野は、ひょっとするとこの勉強会に革命をもたらすかもしれない。
「舐めたこと言って悪かった。ご指導、よろしくお願いします」
俺は非礼を詫びる為、矢野に頭を下げる。
「いいって! 私、こんな見た目だから誤解されやすいんだよ。……でも、光君がそこまで言うなら、お姉さん張り切っちゃおうかなー」
「わ、私も! 間宮君のこと頑張って育て上げるからね」
「よろしくお願いします……」
ありがたい話の結果、未来の自分に同情することになりそうだ。
「じゃあ僕は、蓮につきっきりで教えられるってことだね」
「ひっ……!」
蓮が上げた声は、彼氏とのマンツーマンレッスンを喜んでいるとは思えないものだった。
かくして、最後の休日を使った中間テスト勉強会が始まった。
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