表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/123

#26 嵐は再びやってくる

 テストまで残り二週間を切ったこの日、俺の高校生活に新たな風が吹いた。


「お前達! 分かっているとは思うが、中間テストまでの時間は残り少ない。そんな時になんだが、一つニュースがある」


 ゴリラが勿体ぶった言い回しをするなんて、珍しいな。明日は雨でも降るのか?


「今日、このクラスに転校生が来る」


 その発言に、クラスはざわざわと音を立て始める。

 男子か? 女子か? イケメンか? 美人か? 様々な憶測が飛び交う教室をゴリラの一喝が制する。


「静かに! ――入りなさい」


 ゴリラは、廊下で待機している転校生に目配せをして、入室を促す。

 俺としては、クラスにどんな人物が来ても関係ない。基本的には接点がなく、行事のタイミングで少し話す程度なら、多少性格に難があっても気にならないだろうしな。強いて言うなら、小野寺を口説くようなイケメンじゃなければそれでいい。


 そう他人事に考えていた俺は、教室に現れた転校生の容姿に目を見開いた。


「初めまして! 今日からこの学校に転校してきた、矢野麗奈です。皆、仲良くしてね」


 二度と会うはずのなかったギャル――矢野麗奈が、俺のクラスに転校してきた。


 ……神様のいたずらにしたって、これはひどすぎる。

 メイド姿はクラスメイトにも見られているから、この際黒歴史扱いはしない。問題なのは、矢野しか知らない”ひかるん”の方だ。小野寺の時のニナ好きよろしく、あの醜態を他の人に知られるわけにはいかない。


「あ!」


 ぐるりと教室を見渡した矢野が、俺に目線を定める。


「光君じゃん! あはっ、まさか同じクラスになるなんてね」


 変わらず天真爛漫な笑顔を浮かべる矢野は、今俺に刺さっている視線の鋭さには気付いていないだろう。


「(こいつ、矢野さんと知り合いなのかよ)」


「(それに聞いたか? もう下の名前で呼び合ってるみたいだぞ)」


「(あはって笑い方、可愛いな)」


「(小野寺さんの許婚じゃなかったの?)」


「(浮気なんて最低)」


 たしかに矢野とは知り合いだけど、俺は下の名前で呼んでないからな? それに許婚じゃないし、浮気をしたつもりもない。……っていうか三番目のやつ、本音が漏れてるぞ。

 俺は涼しい顔をしながら、心の中で一通り言い訳とツッコミを済ませる。


「なんだ、間宮と知り合いなのか。それなら学校案内は、間宮に任せたぞ」


「……え」


「それと、あそこが矢野の席だ」


 ゴリラが指差したのは、俺の右後ろにぽつんと佇む一席。つまり矢野の席は、小野寺の隣ということになる。

 

「何かあったら、間宮を頼るように」


「はい!」


 矢野の表情に輝きが増すにつれて、俺に向けられる黒い感情が強まっていく。

 こんなことなら、小野寺に言い寄る男の方が、まだマシだったかもしれない。



 授業中、矢野は驚くほどに静かだった。ギャルという生き物に、騒がしいという偏見を持っていたわけじゃないが、それでも真面目に授業を聞いているのは意外に思えた。


「では、次回は章末問題からやっていきます」


 チャイムが鳴り、昼休みがやってきた。

 俺は後ろを振り返り、矢野に声をかける。


「学校案内のことなんだが、放課後とかでいいか?」


「あれ、本当にやってくれるの?」


「頼まれたんだし、やるしかないだろ」


「そっか、ありがとね」


 はにかむ矢野に別れを告げて、俺は中庭へと向かった。


「さぁ光、白状しなさい」


 中庭について早々、蓮に詰め寄られる。

 すでに小野寺と翔太も合流していたが、どうやら二人は蓮についているらしい。


「白状というのは……?」


「あの転校生との関係よ!」


 人差し指を眼前に突きつけられ、俺は思わず後ずさる。


「光も隅に置けないね。まさかあんな美少女と縁があったなんて」


 翔太がそう言うと、小野寺はこくこくと首を縦に振る。


「こら、茶化さないの」


「ごめんごめん。でも本当にびっくりしたよ。どこで知り合ったんだい?」


 俺は文化祭であったナンパのこと、それを助けるために体を張ったことを話した。


「ナンパね……」


「なんか文句でもあるのか?」

 

 訝しむような蓮の視線に、俺は不服を唱える。


「いや、ナンパに遭遇しすぎって思っただけよ」


「……俺もそう思う」


 この先また遭遇するようなことがあったら、どんな醜態を晒してしまうのか恐ろしくてしょうがない。


「不思議な縁で再会することになったけど、ただの友達ってことなんだね?」


「……友達以外に何があるんだよ。なんなら友達かすら怪しいまであるぞ」


 すると、中庭に元気な声が降り注ぐ。


「おーい、光君!」


 声の方を見ると、渡り廊下の窓から矢野が身を乗り出していた。勢いよく手を振る矢野に、俺は恥ずかしさを覚えながら手を振り返す。


「これで友達じゃないっていうのは、無理な話だね」


 背後から聞こえた呟きは、呆れたような物言いだった。

お読みいただき、ありがとうがとうございます。

面白い、続きを読みたいと思ったら、☆評価や感想などを頂けると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ