#21 文化祭二日目③
「一年B組、メイド喫茶でタピオカドリンクを販売しています。いかがですかー」
俺はプラカードを掲げながら、廊下を宣伝して歩く。
タピオカに釣られたのかメイドに釣られたのかは分からないが、結構な人数に教室までの行き方を聞かれた。結果、想像以上に広告塔としての役割を果たせてしまっていた。
「あのー、ちょっといいですか?」
肩を叩かれ振り返ると、そこには金髪ギャルの姿があった。と言っても、もちろん小野寺ではなく、他校の制服を身につけた外からの来場者だ。
ブレザーを腰で結び、ワイシャツだけになった上半身。その胸元が大きくはだけていることで、俺は目のやり場に困っていた。おまけにスカート丈は俺よりも短く、素足を惜しげもなく晒している。
「な、なんでしょうか……」
目も合わせられず、挙動不審な応対をしてしまう。
すると、ギャルはこちらの顔を覗き込み、無理矢理視界に入ってきた。傾けた顔に合わせて、短いサイドテールが尻尾のように揺れている。
「なんで目逸らすんですかー?」
「いや、何も……」
俺が視線を彷徨わせる度、ギャルは視界に入ろうと周囲を動き回る。彼女から漂う柑橘類の甘い香りに、俺は落ち着くことが出来なかった。
「……あれ? もしかして君、一年生?」
正面に回り込まれたところで、ギャルが足を止めた。彼女が見ていたのは、俺の学年とクラス、名前が記されているカードケースだった。
「はい、そうですけど」
「じゃあタメじゃん! あはっ、嬉しいな」
そう言ってギャルは笑顔を弾けさせる。
「間宮光君……それとも光ちゃん?」
「ちゃんは勘弁してください」
「あははっ、そうだよね。私は矢野麗奈、気軽に麗奈って呼んでね」
「はぁ……」
いきなり下の名前で呼ぶのは、中々にハードルが高い。別に今日限りの関係なのだ。無理に呼ぼうとする必要もないだろう。
「それで、何か用ですか?」
「あ、そうだった! 私、このお化け屋敷に行きたいんだけど、道に迷っちゃって。どうやって行くか教えてくれない?」
矢野が指したのは、一年D組のお化け屋敷。俺達が昨日散々な目に遭ったところだった。
俺は腕時計で時間を確認する。
「ちょうど俺も見回りが終わるんで、案内しますよ」
教室に戻るついでだ。本当はメイド喫茶の方にも来てもらいたいところだが、強引にというわけにもいかない。
「ありがとう! っていうか、タメなんだから敬語はなしだよ」
矢野は人差し指を立てて、子どもを叱るようなポーズを取る。
「分かりま――」
「んー?」
ずいっと顔を近づけられ、俺は逃げ場を失う。至近距離に接近した矢野の瞳には、仰け反る俺の姿が映っていた。
「……分かった」
俺が負けを認めると、矢野は「にしし」と歯を見せた。
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