#19 文化祭二日目①
「さぁ、今日も気合を入れて見回りをしてもらうよ!」
波乱の一日目を終え、文化祭二日目がやってきた。
昨日とは違い、今日は外から人がやってくる。見回りの仕事としては、二日目が本番と言っていいだろう。
最上先輩は、実行委員を集めた場で声高らかに宣言した。
「シフト表を見て分かる通り、見回りは一人ずつだ! 少しでも多くの場所に目を届け、来場する方が快適に過ごせるよう頑張ろう!」
もちろん、俺と小野寺も別々の見回りを担当することになる。だから、昨日の間に二人で文化祭を回りたかったわけなのだが、逆に考えるとメイド喫茶で働く小野寺の姿を、合法的に見られるようになったということだ。
……いや、別にどう見たって違法にはならないんだけどな。
誰にしているか分からない言い訳を済ませ、俺は小野寺と連れ立って教室へと戻る。
「今日は一緒に回れなくて残念だね」
「……そうだな。まぁ、昨日で十分に楽しめた……と思う」
「うん。私も楽しかったよ」
そう言って小野寺は、俺の前に回り込むと手を後ろに組み、目元に弧を浮かばせた。
俺は今日も、恥ずかしがらずにいられるだろうか。
その自問自答に答えは出せなかった。
教室では、すでに最終確認が行なわれているところだった。
しかし、何やら状況は芳しくないようで、翔太はクラスメイトと顔を突き合わせている。
「うーん、どうしようかな……」
「光、ちょうどいいところに来たね。実は――」
翔太の話によると、女子生徒の一人が体調を崩し、メイドに欠員が出たそうだ。
しかも、彼女は周囲より背が高く、衣装を代わりに着られる生徒がいないらしい。
そこで、どういうわけか俺に白羽の矢が立ったという。
「どういうことだよ!」
「光は実行委員で見回りがあるから、他の男子より任された仕事が少ないんだ。だから裏方としては光が抜けても困らないし、体型的にもメイド服が着られて一石二鳥ってわけさ」
「それに間宮君なら、見回りの時に宣伝もできるし、一石三鳥だよ」
二人は、まるで名案かのように盛り上がっているが、俺は釈然としていなかった。
「そもそも、俺はメイドが担当する仕事を何一つ知らないんだぞ。あと、俺がメイドとして接客してたら、お客さんもびっくりするだろ」
「メイドの仕事については、小野寺さんに聞けばいいだろう? それに男女逆転喫茶なら、文化祭では恒例みたいだよ」
俺は教室に目を走らせ、ゴリラに助けを求める。だが、ゴリラは目を閉じたまま諦めろと言わんばかりに首を振った。
「そ、そんな……」
無慈悲な宣告に、俺は膝から崩れ落ちる。
――あぁ、このまま逃げ出してしまおうか。
そんな考えが頭を過った時、最上先輩の言葉を思い出した。
『最初に言わせてくれ! ……こほん、実行委員は、文化祭の成功の為に苦しい思いをする立場だ。しかし、君達の尽力が必ず文化祭をより良いものにし、訪れる全ての人の"楽しい"に繋がると確信している。だから、過去最高の文化祭作りに力を貸してくれ!』
今年の文化祭のスローガンは、『最高の文化祭で、最高の楽しいを!』。それを実現する為、皆で今日まで頑張ってきた。その頑張りを、俺のわがままで台無しにするわけにはいかない。
俺は立ち上がり胸を張ると、思いっ切り息を吸い込んだ。
「よし! 俺を最高のメイドに仕立ててくれ!」
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