#18 文化祭一日目・終
今回は短めです。
「はぁっ、はぁっ」
気付けば結構な距離を走ってしまった。
無意識に足が向かったのは中庭――俺達にとっては馴染みの深くなった場所だ。
「小野寺、大丈夫――」
俺は振り返って、小野寺の様子を確認しようとする。
「か……」
彼女の顔は、俺の目と鼻の先にあった。
白い肌を僅かに上気させ、肩を上下に揺らす小野寺は、浅い呼吸を繰り返しながら、俺を見つめている。
その姿にのぼせてしまったのは、走って息が上がったせいだろう。
「うん、大丈夫だよ。こんなに走ったの久しぶりだから、ちょっと疲れちゃったけど」
「悪かった。俺もこんなに走るとは思ってなかったんだ」
我ながら残念だが、俺は一刻も早くあのお化け屋敷から離脱したいと思ってしまっていた。脱出の直前、蓮の声が幻聴で聞こえるとはな。あのお化け屋敷、一体どんな細工をしてるんだ?
「間宮君、その……手……」
小野寺に指摘され、俺は手元の熱を認識する。
俺の手中には、小野寺のしなやかな手が握られていた。
「わ、悪い! 嫌だったよな」
「あ……」
ぱっと手を離すと、今度は小野寺が俺の手を掴む。
「小野寺?」
「嫌だったわけじゃないの。……だから、離さないで」
そう言って見つめられると、俺としては強く出られなかった。
いつもであれば、動揺して手を引っ込めるところだが、今日ばかりはそうもいかない。
「……分かった」
俺は口の端から漏らすように、肯定の言葉を告げる。
そして、一方的に掴まれていた手を滑らせ、彼女の手をしっかりと握った。
日が沈み始め、茜色が射す中庭に二人の影が細く伸びた。
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