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ふたりぼっちは何も見えない  作者: 怠惰なペンギン
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帰路

なんだかんだで3日連続投稿してます。


「あ!時間やば!」


 涼介はスマホの電源をつけて確認する。もう21時を回っているではないか。二人は学生の身なので親も心配するだろう。


「私、こんなに遅い時間に外にいるなんて初めてです!」

「うん、僕も。なんだかドキドキするねー、あ、もう夜遅いから、送ってくよ」

「あ、ありがとうございます…」


 街灯を頼りに帰路につく二人。小白と並んで涼介は自転車を引いて歩く。車も通らないので多少道路に出ても問題ないだろう。

 暫く歩いていると、不意に小白が口を開けた。


「あの、今日はほんとにありがとうございました」

「うん、どういたしまして。いやー、あのとき間に合ってよかったよ、ほんとに」

「うー、ごめんなさい」

「謝らなくていいって、僕のほうこそ変な質問しちゃったし、変な場面で」

「ふふっ、今思えば変ですね」

「ははは、変だねー」


 話題が話題であるが二人の間には和やかな雰囲気が流れてる。ここで涼介は腹をくくった。そう、涼介は小白の連絡先を聞こうと今までタイミングを見計らっていたのだ。生まれてこの方、女子と連絡先を交換したことがない涼介にとっては緊急事態なのだ。


「あのっ!」

「ねぇ!」


 二人の話しかけるタイミングが被ってしまった。

「あっ、さっ、先どうぞ!」

「いやいやいやいや、僕の話なんて全然大したことないから、先言って」

「で、では私から」


 どうやら小白のは大事な話らしい。


「あの……また私と……、会ってくれますか?……でっ!できれば、その、れっ!連絡先と、とか、交換してくれたら……」

 

 顔を紅潮させて、上目遣いに頼まれた涼介は、一瞬魂が抜けたが即答した。


「勿論大歓迎だよ!今まさに僕も言おうと思ってたんだ」

「本当ですか!やったー」


(無邪気に飛び上がって喜ぶの可愛すぎだろ!)


「……っ、しゅいません……///」


(…………)


「天使ですか?」


 飛び跳ねていたことへの恥ずかしさと噛んだことへの恥ずかしさというダブル羞恥コンボが決まって、涼介にクリティカルヒットしたところで二人は連絡先を交換した。

 涼介は内心ガッツポーズしながら小白とメッセージを送りあった。

 メッセージが来る度に顔をほころばせている小白は年相応でなく、少々幼すぎる様子だった。

 小白はこれからがスタートなのだ。これから、色々な経験をして、自分を作っていくのだろう。

 涼介は小白のケータイに映る友達一人の表示を見ながらそう思った。

 小白がこれからどうなって行くかは、涼介にはわからないが、小白には涼介しかいないことは分かる。

 絶対に自分だけは小白を裏切ってはいけない。そうしなければ、また空っぽの小白に戻ってしまう。

 そして涼介の役目は、小白とたくさん関わってあげることだ。


「ねぇ、明日も会える?」


 涼介は真剣味を帯びた声でそう尋ねた。

 小白はそれを聞いて、また満面の笑みを浮かべて大きくうなずいた。


「はい!もちろん!……あ、私の家、ここです」


 団地の一角、ほかと遜色ない普通の家だ。あんな話を聞いた後だと変な気分になってしまう。

 すると小白がこちらを振り返った。すこし近づいて、下から覗く形となった小白は、顔を赤くして、手を前でもじもじさせながら


「また明日ね、涼介くん…」


 と言って急いで家の中に入っていってしまった。

 固まる涼介。

 5秒立ってようやく動き出した。心臓が爆音を上げている。口が引き裂けるくらいニヤニヤして、ぬふふふと変な笑い声が出ている。


「そ、それは反則でしょう!……涼介くんだって!涼介くんだって!……やばいこれがキュン死というやつか、もう、このまま死んでもいい」

 

 涼介は大きく深呼吸して、引き上がったままの口角を無理やり戻して自転車に乗った。


(もう明日が待ち遠しい)


 真っ暗な道、自転車のライトの光を頼りに進んでゆく。鼻歌を唄いながら、次会う時のことだけを考えていた。今さっき別れたばかりなのに名残惜しく、もう何年も会っていないのではないかと錯覚しては、小白の声や姿を懐古していた。

 涼介の中には小白が鮮明に刻まれていた。月明かりに反射して輝く、純白の髪に、真っ白な折り紙でできているのではないかと思うほどきめの細かい肌。華奢な体は、多少幼さがあるが、腰のところはしっかりと丸みを帯びていて女性らしさがあった。棒のように細い腕からその白さゆえ血管の色が目立っており、ガラス細工のような繊細でか弱い指は触れるのも躊躇われた。ぱっちり二重の大きな黒い瞳はとても愛らしく、鼻筋は通っていて、薄紅色の花唇には蠱惑的な魅力が漂っていた。

 そんな可憐な小白の目に自分しか映っていないことが夢のようで、それが無性に嬉しくなる。小白のことを考えるだけで、何もかもがどうでも良くなってしまう。それくらい小白が愛おしいのだろう。

 彼女を想うたびに、明日を生きる気力が勇気が、沸々と湧き上がってくる。もう少し頑張ってみようと思えるのだ。

 涼介は前を向いた。

 

 


お読みいただきありがとうございました。

感想を聞かせてもらえると本望です。

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