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ふたりぼっちは何も見えない  作者: 怠惰なペンギン
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運命.4

2日連続投稿なんて、できるんですね。


「私は、それで、っ、本当に、ごめん、なさい」

「うん、もういいから、ほら、泣かないで」


 涼介はまた泣き出した小白の背中をさすりながら大丈夫、大丈夫、と言い聞かせるように連呼して。周りを窺った。

 誰もいないことを察して一息つく涼介をよそに小白は続けた。


 あまりにも酷くて、残酷で、可哀想で、そんな同情しか浮かんでこない。こんな話を聞いたら誰でもこうなるだろう。

 何かしてあげたいと思えど、小白は全てを自己完結させてしまっているのだ。今更あれこれ言ったとしても無駄である。何もかも信じることをやめてしまったのだから。

 

「ごめんなさいっ、わたしはっ、もう苦しくてっ、すっ、何も考えたく、なかったんです」

「うん、大丈夫、大丈夫だから……」

 

 涼介の中には、同情と、怒りと、なにか違うものが混濁した。


 (違うこれじゃない。こうじゃない。これではいけない)


 父と母のあの言葉以外全て、そしてあの言葉の意味自体あやふやなまま、今まで生きてきた何もかもが"違う"と言って。

 だが、意味があやふやでも明確に感じ取ることができた"それ"は、確かに小白が5歳の頃から感じてきたどんな感情でもなかった。


「……………ぇ」


 いきなりだった。今まで感じたことがなかった。

 否、感じたことがある。なによりも温かくて、懐かしくて、幸せな、あの感覚。


「…辛かったね」


 涼介は小動物のように華奢な体を力一杯、それでいて割れ物を扱うように優しく抱き寄せた。

 ゆっくりとお湯注いでいくように。小白という空っぽの型に、温かい物を満たしていく。


「…うん」


 二人が作ってくれた"愛"の型にゆっくりと。


「苦しかったね」


 ゆっくりと言葉のガラス棒を伝って。


「……うん」


 どれだけ狭い隙間も埋まるくらい入念に。


「寂しかったね」


 ゆっくりゆっくり注いでいく。


「…っ…うん…」


 最後の一滴まで余さずに。


「もう、大丈夫だから」


 その言葉を皮切りに、小白の堰は崩壊した。

 小白が耐えてきた、無視してきた、忘れようとした思いが、間欠泉のように込み上げてくる。止める術を無くしたその思いは、声となって、涙となって涼介にぶつかった。だが、その声と涙には今までのような絶望感も、悲哀感もなく、喜びと安心感に包まれた、まさしく産声のような、この世界の祝福に初めて出逢えたような、そんな泣き声だった。


 時刻は21時を過ぎ、家々の光も弱くなり始め、ここを照らすのは点滅するポールライトと月明かりのみ。

耳に入るのは春の夜風に川のせせらぎ、それと目の前の少女の鼻を啜る音。

 小さな温かい身体をそっと離して、涼介は前を見た。


 風が吹く、まるで蜘蛛の糸かのように軽く持ち上がった髪は純白の羽衣を思わせた。透けてしまいそうだったほどの真っ白な顔は、目尻と頬を薄紅に染めて、大切なものをくれた大切な人しか映していない真っ黒な目で子供のようにはにかむ少女。

 涼介の脳内であの時の絵と今が重なる。


 美しかった。

 小一時間前とは正反対の美しさだ。先程が、「死」の美しさであるなら、これはまさに「生」の美しさである。

 美しかった。綺麗だった。もっと見ていたかった。もっと、もっと、これからもずっと見ていきたい。

 ずっと隣で、ずっと近くで、ずっとずっと、この子の描く美しさを。

 

 そうしたら…。


(そしたら…僕は…)

 












 


お読みいただきありがとうございます。

これからも続けていきますので、どうぞ応援よろしくお願いします。

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