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花浜匙  作者: 遠華鏡
プロローグ
1/8

第0話「忌み子の誕生」

 はじめまして。今回が初の小説投稿です。温かい目で見守っていただけると嬉しいです。亀投稿になってしまうかとは思いますが、できるだけ早く投稿できる様に頑張ります。

 皆さんどうぞ宜しくお願いします。


2025年5月9日 

文章を大幅に書き直しました。設定はそこまで変わっていません。どうぞよろしくお願いします。

 人間界のとある大国で、凶事や災害を司る禍津日神(まがつひのかみ)が生まれた。その神は大国の王子として生まれた。しかし、彼が生まれた日から様々な不幸が国を襲い、多くの民が死んでいき、不満を募らせた者達による反乱軍が瞬く間に出来上がったため、その責任を取らされる形で生後半年で彼は深い山奥に捨てられた。

「陛下、これで我らの国は安泰でございますね!」

「お見事な采配でございました!」

「奴が居なくなったおかげで、止まっていた貿易も、流行病も、飢饉もなくなりました! 反乱軍との戦にも勝ち、これで我らの愛する国民は死なずにすみます! この半年で亡くなってしまった者達も、草葉の陰で泣いて喜んでいるでしょう!」

 赤子が国を襲った不幸の責任を取るため捨てられるなど馬鹿げた話だが、疲弊しきった彼らにはもはや正常な思考など存在しなかった。

「半年も辛い思いをさせてしまってすまなかった。今日は祭りだ。今までの疲れを存分に癒すがいい」

 赤子を捨てた日から1ヶ月後、その国では大きな祭りが開催された。毎年開催されていた冬祭りと、厄災が国から消え、また元の豊かな生活に戻ったことを記念してのことだった。

 多くの屋台が大通りに所狭しと並び、祭囃子の音は止まることがなく、人々の幸せな笑い声も止まることはなかった。

 しかし、祭囃子と笑い声に隠れて、王宮の一角にある、とある部屋からは泣き声が絶えず漏れ聞こえていた。

 その部屋は王妃の部屋だった。

「ああ、なんてことを! あの人はなんてことをしてくれたの! あの子はまだ、1歳にもなっていないのに! そんな小さな赤子を捨てるだなんて! ひどいわ、なんてひどい人! 昔はあんなのではなかった!」

 カーテンは無惨に破られ、クローゼットの衣服はあちこちに散らばっている。化粧品はひっくり返されて、放置された食事にかかり使うことはできなくなっている。

 美しかった銀髪は艶を失い、頬は痩せこけ、目元は腫れている。

 荒れ果てた部屋に独り立っているその姿は、孤独を厭う子供のようだった。

 王妃は小さな服を抱きしめ、さめざめと泣き続けた。

「私の可愛い坊や、ごめんね、ごめんね。守れなくってごめんね。約束したのに、約束したのに」

 王妃はそれから部屋を出ることはなかった。



     ◇◇◇



 とある屋台の前で、2人の少年が仲睦まじく食事をとっている。辿々しい言葉で話す3歳ほどの少年が、小さな手でレンゲを掴み、炒飯をもう1人の年上の少年の口へ運んだ。

「あい、ほむあにちゃ、あーん」

「ありがとう(おろし)

「おいち?」

「ああ、とっても美味しいよ。颪も食べなよ。ほら、」

「んま!」

「まだ食べてないでしょ」

 彼らは血のつながった兄弟ではない。彼らは幼馴染だ。親同士の仲がよく、その延長で仲良くなったのだ。特にこの2人は互いの実の兄弟よりも仲が良く、周りが本当の兄弟だと思ってしまうほどだ。

「それにしても、みんなはどこに行ったんだろう? お祭りだからってはしゃぎすぎなんだよなぁ」

「こまたね〜」

「ねー」

 屋台の前に置かれた椅子に座って、はぐれた家族を待つ彼らに、屋台の店主が話しかけた。

「お母さんたち見つけられたかい?」

「まだです。すみません邪魔をしてしまって。そのうえ、ご飯まで…」

「良いって、良いって。気にすんな。好きなだけいてくれよ。俺ぁ子供に、こんな祭りの日に寂しい思いをさせたくねぇだけだ」

 店主は厳つい見た目をしているが、心根はとても優しい人間だ。

「ありがとうございます!」

「ます!」

 2人は店主にお礼を言った。

「元気があって良いねぇ、何か欲しいもんあったら言ってくれ。うちの一番若ぇのに買いに行かせっから!」

 たまたまそばで聞いていた、その1番若い店員が叫んだ。

「パシリにされることが勝手に決められてる?! 店長が行ってくださいよ! それ自腹でしょ?!」

「子供のお金は子供のために、大人のお金も子供のために!」

「遠回しに肯定された!」

「行くって言ったら給料増やしてやるよ」

「行かせていただきます!」

「現金なやつ……」

 流れるような店主と店員の応酬に、聞いていた周りの人々が笑い声を上げた。

 年上の少年、(ほむら)がふと夜空を見上げた。

 いたる所に提げられた提灯が、国全体を昼間のように明るく照らしている。そのためか、普段は見える満点の星空が少し翳って見えた。

(もし、何も知らなければこの星空も綺麗だと思えたのかな)

 国民は、王子が捨てられたことを知らされていない。国民が知っているのは、この国にかけられた呪詛を国王自ら祓ったという偽りの真実だけだ。

 王子が捨てられた日の朝、半年に渡る地獄のような期間は全て敵国による呪詛が原因だと発表された。呪詛を確実に祓うため半年に及ぶ準備をし、それが成し遂げられたのだと、声高に国王が告げたのだ。

 しかしその発表も発表の場も、王子を捨てるために国を出立する軍人たちに国民の目が向かないように用意された嘘だった。

 それを焔が知ったのは、国王が偽りの真実を告げて数日経ったあとだった。

 軍師を務める父が、泣きながら真実を焔に伝えたのだ。

 焔の父は、王子が捨てられた日の早朝から数日家を空けていた。

『大事な仕事があるんだ。明日から数日家を空けてしまう。悪いんだが焔、みんなのことをよろしく頼む』

 父がそう告げたのは家を出る前日の夜だった。ひどく悲しそうな顔をしていたのを焔は覚えている。

 帰ってきた父は憔悴しきっていた。

 焔が父の帰りを知ったのは、経済難で潰れかけていた近くに住む老夫婦が営む店での手伝いを終わらせて家に帰ってきた時だった。両親の寝室で父が泣いていたのだ。

 声も上げず、目は虚空を見つめ、顔はやつれ、背を丸めていた。何があっても凛とした姿勢を崩すことがなかった父が、まるで何かに怯えるように背を丸めていた。

『父上お帰りなさい。どうされたのですか?』

 父は焔に気づくと、焔を抱きしめた。

 そして、震えた声で言った。

『私をもう父と呼ばないでくれ』

 父は、震える声で真実を焔に告げた。

『陛下に命じられたのだ、王子を捨ててこいと。何を言っているのか初めは理解ができなかった。国に起こった凶事が全て王子のせいで、その責任を取らせるために捨てるのだと、陛下はそう仰った。理解できるわけがない! 王子には何の罪もないのに、ただ生まれてきただけなのに、大人たちが対処しきれなかったことを全て赤子のせいにしたのだ。こんな馬鹿な話があるか?! 陛下は狂ってしまわれた。いや、陛下だけではない。家臣たちも全員狂ってしまった。そして私も、狂ったのだ。王子を捨てた日、私は5人の部下と共に王子を山奥へ運んでいた。すると部下たちが突然苦しみ出した。数秒もかからぬうちに部下たちは死んだ。何が何だか分からなかった! ただ、この腕に抱いていた王子がこちらをじっと見ていた。得体の知れない恐ろしさが全身を駆け巡って、気づけば私は刀を抜いて、王子の首を切り飛ばしていた。私は王子を殺してしまったのだ。部下が死んだのは王子のせいだと思って! そんな事あるわけがないのに! 少し考えればわかるのに! 私は陛下たちと同じになってしまったのだ。命の価値がわからなくなってしまった。すまない焔、お前の父は、王子の首を切った時に部下たちと共に死んでしまった。だからもう私を父と呼ばないでくれ。こんな殺人鬼を、父などと呼ばないでくれ。私に父親の資格などない』

 泣きながらそう告げる父に、焔はそんな事はないと言ってやりたかった。本当に命の価値がわからなくなったのなら、きっと今ここであなたは泣いていない、こんなにも自分にしがみついていない、そう伝えてやりたかった。

 しかし、自分の言葉はすでに父には届かないと焔はわかってしまった。

『わかりました、ご当主様』

 焔の小さな肩を濡らす父であった人の涙を、焔は一生忘れる事はないだろう。

 その日以来、当主は家に帰っていない。

 小さな口で炒飯を頬張る幼い少年、颪を焔は見つめた。彼の父は、当主の親友であり軍師の補佐を務めている。心に傷を負った親友を気遣い、仕事以外でも様々なサポートをしてくれているようだ。

『あいつは優しい奴だから、俺もたくさん助けられたんだ。これはその恩返しさ。こんな事しかできなくてごめんな。ほんとは仕事休ませてやりたいんだけど、あいつがいないとできないことが多いんだ』

 颪の父は、最愛の妻を流行病で亡くしている。傷心中であるにも関わらず、当主のことを常に気にかけてくれている。

 申し訳なさそうに謝る颪の父を見て、焔は当主の親友が彼であることに心から感謝した。

「ねぇ、颪」

「んむ?」

 焔は颪の顔に手を添えた。幼児特有の高い体温が、冷えた焔の手を温めた。

「ほむあにちゃ、どちたの?」

 にぱりと笑う颪。その笑顔は焔にとって、とても眩しいものだった。

「僕たちの幸せは、誰かの犠牲の上に成り立ってるんだ。そのことを、忘れないで」

「んむ?」

 幼い颪に、焔の言葉は難しかった。

「あはは、わかんないよねぇ。少しずつで良いから、わかるようになって。僕の言葉を忘れないでね」



     ◇◇◇



 2年後、再び災禍は降り注ぐ。

「ご報告します! 隣国が攻め入ってきました! 国道に沿って、王都へ進行中とのことです!」

 それはとある穏やかな日だった。

 睡蓮が咲き誇る王城で宴会を開いていた時、兵士の声が庭に響いた。

「なに?! 被害は!」

 国王は動揺を隠さないまま聞いた。

「国境付近の村や町はすべて焼き尽くされ、多数の死者が出ているとのこと!」

 国王は絶句した。

 宴会の参加者たちは口々に叫んだ。

「なんてこと!」

「隣国の奴らめ、宣戦布告もなしにこんな卑劣なことを!」

「なぜ攻めてくるのだ!」

「隣国は最近食糧不足の問題が出てきていたが…」

「まだ貿易で補える範囲だろう?!」

「流行病もあるとか!」

「従来の薬が効かないそうだ」

「だからって戦争を仕掛けるか?!」

 混沌と化した宴会に、国王の声が響いた。

「静まれ! 今原因を探っても時間の無駄だ! 軍務省に伝えよ! すぐに出撃の準備に取り掛かれと!」

「はっ!」

 命じられた兵士は軍務省へと向かった。

 その日、隣国との戦争が始まった。

 初めは善戦していたが、1ヶ月、2ヶ月と経つうち、徐々に隣国に押されていった。

 そして戦争が始まり4ヶ月が経った頃、戦火はとうとう王都を包んだ。



     ◇◇◇



 王都のあちらこちらで悲鳴が聞こえてくる。

 隣国の兵士から逃げながら、8歳になった焔が血と煙と土埃が充満する瓦礫だらけの王都を走っていた。

「母上ー! みんなー! どこだー!」

 共に買い物をしていた家族を探しているのだ。

 突然の爆撃により、王都中は混乱の渦となった。どうにか安全な場所はないかと探している最中、焔は家族とはぐれてしまったのだ。

 軍人の家系なため、武器のない時でも戦えるように家族全員毎日訓練しているが、女性である母は男の軍人には苦戦することもあり、長男である焔の後に生まれた4人の弟妹はまだ幼く未熟だ。この戦火の中、なにが起こってもおかしくはなかった。

(無事でいてくれ!)

 焦る気持ちだけが募っていく。

 そのとき、走る焔の耳に聞き馴染んだ声が聞こえた。

「大兄さま! 小兄さま! 今、颪が瓦礫をどかします! 一緒に逃げましょう!」

 その声の主は、5歳になった颪だった。

 颪は瓦礫の下敷きとなった兄達を助けようと必死に瓦礫を押していた。その手は瓦礫で切ったのか、ところどころ傷が出来ていた。

 焔と同じ軍人の家系であり他の同年代の子供よりも力が強いとはいえ、小さな颪では巨大な瓦礫は動かせない。たとえ瓦礫をどかせても兄達が動けない事は明白だった。

 颪の兄達は、虫の息だった。

 爆撃により飛んできた瓦礫から颪を守ったのだ。

 1番上の兄が言った。

「お、ろし……はやく…にげな、さい」

「嫌です! 颪は兄様達と逃げるんです!」

 2番目の兄が言った。

「にいさま、たちは……あとから、い、く、から……」

「では今一緒に行きましょう! あとからなんて、そんなこと言わないでください!」

 颪は泣いていた。

「颪!」

 焔が叫んだ。

「焔兄ちゃん!」

 颪が焔に気づいた。颪は瓦礫を押しながら焔に言った。

「瓦礫をどかすのを手伝って! 兄様達が動けないんだ!」

「無理だ、兄さん達は置いていく」

 颪は懇願したが、焔はすぐに拒否した。

「………え」

 颪は一瞬、何を言われたのか理解できなかった。

「どうして?」

「この巨大な瓦礫をどかすのは僕たち2人じゃ無理だ。力が弱すぎる。それに、たとえどかせても、兄さん達はもう動けない。もう虫の息だ。動けない人を連れて行けるほどの余裕はない。だから置いていく」

「そんな…」

 颪は大粒の涙を流しながら非情な現実に絶望した。

「そんなの嫌だ…やだやだやだやだやだ! 兄様達と一緒にいられないなら、颪もここに残る! 兄様達と一緒に死ぬ!」

 颪が叫んだ。焔と兄達は驚きに顔を染めた。

「何言ってるんだ! そんなこと言うな!」

 焔が颪を叱った。

 焔は怒っていた。

 焔は颪の兄達が、これまで必死に幼い颪を守ってきたのを見ている。母親を亡くし、父親は軍師補佐の仕事で家に帰れないなか、親代わりに颪を守り育てていたのは兄達だ。いつも颪のことを気にかけていた兄達の気持ちを踏み躙るような事を言う颪に、焔は怒りが湧き上がったのだ。

「兄様達が死ぬなら颪も一緒に死ぬ!」

「颪!」

 焔が呼びかけるが、構わず颪は泣きながら言った。

「母上は2年前の流行病で死んだ! 昨日父上の訃報だって届いた! 兄様達まで死んだら、颪には何も残らない! ひとりぼっちは嫌だ! だからここで兄様達と一緒に死ぬ! もう決めた!」

 颪の家に降りかかった災いは、悉く幼い子供から家族を奪った。5歳の子供が死ぬことを決断させるほどに、絶望を与えた。

(本気だ。颪は本気で死ぬつもりだ。どうしよう! そんなの絶対に駄目だ! どうすればいい! どうしたら説得できる?!)

 悩む焔に、1番上の兄が言った。

「はや、く……つれ、て、いって、くれ」

「っ! 大兄さん!」

 か細い声で、1番上の兄は続けた。

「おろし、は……おろし、だけは、いきて、て、ほし、い」

「お、れも、おなじ、だ」

 2番目の兄も賛同した。

 颪は首を横に振る。

「颪は兄様達に生きててほしいです!」

 颪の顔は、涙でぐちゃぐちゃだった。

 1番上の兄は焔に言った。

「なや、むな。ほむら、くん……おとうとを、たのむ」

 焔を見つめるその目は、とても力強いものだった。生き残ってほしいという強い思いが、焔に伝わった。

 焔は颪を抱きかかえると、一直線に走り出した。

「やだ! 離してよ! 焔兄ちゃん! 兄様達と一緒にいさせて!」

 遠ざかる兄達に手を伸ばす颪。

「やだ」

 煙が颪の視界を遮る。

「やだ」

 颪の脳内に兄達との温かい思い出が頭をよぎる。

「やだ」

 泣いている颪の涙を拭ってくれる、兄達の大きな手はない。

「やだ」

 颪を見つめる優しい瞳はない。

「やだ」

 颪の名を呼ぶ、低くて心地のいい声はない。

「やだ」

 颪を抱きしめてくれる家族はもういない。

「やだぁぁぁぁぁぁああああああああ!」

 兄達のいる場所に、爆弾が落ちた。




     ◇◇◇



 戦争は隣国の勝利に終わった。

 王族とそれに連なるものたちは全員処刑されることが決まり、他の貴族や平民たちは奴隷として働かされている。

 国王は自らの首が落とされる瞬間、頭をよぎったことがあった。

 それは、生後半年で捨てた王子のことだった。

 もしも、王子が自分を殺した国王たちのことを恨んでいるとしたら、怨念が呪いに転じたことで今回の戦争が起きたとするならば、王はそこまで考えると心が怒りに包まれた。

(まさか、我々がお前を殺したから、その復讐だとでもいうつもりか?! 忌子の分際で! お前が生まれたから国は凶事に見舞われたのだろうが! 元凶を消すのは当然のこと! なぜ我々がこのような事にならなくてはならないのだ!)

 王は何も変わらぬまま日々を過ごしていた。

 度重なる災いに自らの心が壊された事を自覚せず、腹を痛めて産んだ子を捨てられた王妃の悲しみに気づかず、王子を捨てた軍師が心に深い傷を負ったのに気づかず、『我が子を殺した』という自覚もせず、ただ平和に過ごしていた。

 王にとって王子は血を分けた息子ではなく、ただの敵だった。

(許さぬ、許さぬ、けして許さぬぞ!)

 王は首を落とされた。



     ◇◇◇



 行き場のない怨念は、本来ならば近くの死体に吸収され、人を食い殺す羅刹(らせつ)となる。しかし、行き場のある怨念すなわち対象が存在もしくは生きている場合の怨念は、呪いと成り対象が消滅するまで様々な不幸を振りかける。

 かの国を襲った災いは、王子の呪いではなかった。いつの世でもあり得た出来事だった。国が滅びる事も、あり得た出来事なのだ。しかし、それで納得できるほど人間というのは強くできていない。何かが起きれば必ずその原因を探す。突き止めた原因がたとえ間違いだとしても、大勢で糾弾する。

 非難の声は心を蝕みいずれ対象を殺す。

 まるで呪いのように。

 王と同じ結論に至った者たちは、少なくなかった。

 滅びゆく国と、人としての尊厳を奪われていく国民たちを眺めながら死んだ者たちの怨念は、いかほどだろうか。

 彼らの怨念は、万が一のことが起きていなければ死体に吸収されるだけだった。しかし、怨念は呪いに成った。

 王子は生きていたのだ。不幸なことに。

 王子はそもそも人間ではなかった。故に首を落とされても確実に死ぬことはなかった。

 王子は、4つにもならないその体に呪いを宿し、500年経った今も生きている。

 彼は後の世で、禍津日神(まがつひのかみ)の他に、邪をもって害を成す神、即ち邪害神(じゃがいしん)と呼ばれるようになる。

 誤字、脱字、感想などありましたらよろしくお願いします。

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