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プロローグ 悪霊憑きの噂



「悪霊憑きの孤児だと?」


 とある店の中。

 一組の男女が最近、この街を騒がせている噂について、話をしていた。





 時刻は夕暮れ。


 男は(この時間帯は空いているので)柄にも無いような、小洒落た行きつけの茶屋を訪れていた。


「なんだなんだ? 珍しく繁盛してんな」


 今まで昼時にしか見たことが無いような、この店にある数多くの席が足りなくなるような、満席だった。


「いらっしゃいませ、こちらのお席にどうぞ」

「んあ? あぁ、はい」


 どうやらタイミング良く席が一つ空いたらしい。

 とりあえず、と言った感じで男は"いつもの"を頼み、何故か美人な女性が多く、男は一人というこの居心地の悪い空間を、普段体験できない珍しいものとして楽しもうとしていると、店員が近付いてきた。


「お客様、相席をお願いしてもよろしいでしょうか?」


 どうやら後続が入店したらしい、本当に何故か今日は人が多い。


「構いわね……ませんよ」

 

(うん、すげぇ居心地わりぃな、やっぱ楽しめねぇわ)


 そんなことを考えていると向かいの席から声が掛けられた。


「失礼するぞ、御仁」

「ああ……ぁ?」


 女性が座っていた。

 肩まで届くような赤黒い髪に、吸い込まれるような黒い瞳。

 まるで王族のような複雑な意匠の凝らされたドレスとティアラを纏った美しい女性が。


「王女……様?」


 しかし、特筆すべきはそこではなかった。

 似てはいるがまるで違う筈なのに、王女に似ているのだ。

 思わず、口に出してしまう程に。


「ふふ、口説いているのか? ならばちょうど良い、この街には来たばかりなんだ、何か面白い話をしてくれよ?」


 男の飲んでいる"いつもの"を頼みながら、女は微笑んだ。





 男は女の虜になった。

 何故か鼻に纏わりつく薔薇のような香りが、その吸い込まれるような瞳が男を離さなかった。

 ただの世間話から、気付けば己の知りうる全てを、貢ぐように吐き出していた。



「ですんで、武器や防具を買うんならカンターレが一番なんすよ!」

「ほうほう、素材も揃うのか?」


 ~~


「魔法……ですか? あんまり俺は詳しくはないんですけど、魔法都市レメゲトンの…..アンブローズ魔術学院? とか行きたいって仲間が言ってました」

「ほう、マジックアイテムもそこが有名なのか?」


 ~~


「あとは…ええと…」


(あぁ、なんだって俺はこんな偏ったことしか喋れねぇんだ! こんなにも無知を晒す位ならあいつらも連れてくれば….ッ!!)


  いかに全てを話していても、役に立ちそうだと感じる話はそこまでの数はない。

 ならばこそ、苦し紛れに最近聞いた、噂を話すのは必然だったのかも知れない。


「悪霊憑きの孤児、の噂ですかね」


 ただ一つ、男の予想と違ったのは。


「悪霊憑きの孤児だと?」


 思ったよりも女が食いついたことだ。




「ほう、行く先行く先で不幸が起きる、か……」

「はい、ですんで悪霊が憑いているんだと、今はもう引き取る物好きもいねぇんでスラムにでも居るんじゃないですかね。 死んでねぇならっすけど」

「そうか、よし、お前はもう十分だ」


 そして、その悪霊憑きの噂を話し終わった時、そう言い残して、突如として女は消えた。


「え?……あ? 俺……何して…?」

「あら、今日は二杯も飲んでくれたのね? 300カシよ」

「お、おう…..」


 店の混雑はもう、何処にもなかった。


 男は訝しみ、なんとか店での記憶を思い出そうとして、それでも思い出せず、己の日常へと戻った。


 唯一、形として残った二人分の請求書を、耳に残った『もう少し探ってみるか』という言葉を頭の片隅に置いて。





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