SFC ヘラクレスの栄光 Ⅲ
SFCのマイナーRPGをやってみた感想文です。
様々なところで『シナリオだけは傑作』などと言われている、この ヘラクレスの栄光Ⅲ ですが、確かにそれは正解だと思います。しかし、傑作なのは最終盤になってからです。
終盤までは、ハッキリ言ってクソゲーに近いです。
というのも、このゲーム、とにかくザコ敵が硬く、戦闘が長い。しかも、エンカウント率が非常に高く、数歩動く度にザコ敵とエンカウントするため話がなかなか進みません。次の目的地に到達した頃には何をすべきか忘れてしまっている事が多くあるほど道中が過酷です。ザコが強いというのも、レベルを上げれば一掃出来るという訳では無く、このゲーム、主人公側のレベルに応じて出現する敵の強さが変わるというシステムをとっているため、闇雲にレベルを上げてしまうと、ザコがどんどん強くなってしまい、弱い武器しかない無い序盤などではザコに攻撃が効かなくなって積んでしまったり、ボスより強いザコが高いエンカウント率でガンガン出てきて次の町まで辿り着けなくなってしまったりします。どうやってもサクッと楽に戦闘を終わらせる手段というのが無いのが、最大の問題点と云えます。
戦闘やウインドウ操作のシステムはFC版のドラクエ2程度のシステムを汎用しているに過ぎないため、所謂、便利機能みたいなものも無く、最近のゲームに慣れているプレイヤーの人達にとっては、かなり面倒で不親切なゲームと思われるかもしれません。
終盤が傑作のストーリーでさえ、かなり難解で、当時これをきちんと理解して好きになれた子ども達はいたのだろうかと思ってしまいます。
ストーリーの大まかな流れを紹介するにあたり、先ず最終盤のネタバレから説明しないと意味が全く分からないと思われますので、以下、いきなりネタバレからストーリー解説をしていきます。
物語が始まる『現在』から約20年ほど前、とある辺境の村にバオールという一人の男が住んでいました。バオールは子どもの頃から腕っぷしが人一倍強く、独学で鍛えた剣の腕もかなりのもの、さらに軍師の才にも長けていて、勇敢で正義感も人一倍強いという、当に勇者のような男でした。村で成長したバオールは、やがて王国の軍隊に入隊し、隣国との戦争に参加しては持ち前の強さで毎回多くの手柄を立てる活躍をしていました。しかし、軍の総統や国王は辺境の村出身のバオールを蔑んで見ており、どんなに戦争で活躍してもバオールを褒める事は無く、褒め称えられるのはいつも大して活躍もしていない王家の近親者だったりエリート一族の将校ばかり。
バオールはそんな自分の身に向けられる偏見は大して気にしていなかったのですが、自分がもっと立派になって、故郷の村人達を喜ばせたいとか、故郷の村の社会的地位を向上させたいという思いはどんどん強くなってゆくのでした。
そんな日々の中、バオールは国王の命令より先に、自分で考えた『国を大きく繁栄させる案』を独自に実行して国王に驚きと喜びを与えれば自分の実力と才能を国王に認めて貰えるんじゃないかと考え始めていました。バオールには以前から、王を喜ばせるとっておきの秘策を思い付いていたのですが、それはあまりにリスクが大きかったのと、誰かにそれを話してしまって先にやられてしまったら、もう今後、それ以上の賭けは有り得ないだろうと思える程の大博打だったため、ずっと胸の内にしまっておいたのでした。
そんなある日、バオールは決心し、一人で船に乗り海へと漕ぎ出し秘策を実行します。
その世界の海には大きな島ほどもある鯨のような姿をした『オケアノス』という海を司る神がいました。海神オケアノスは自由に海を泳ぎ回っていて、その姿は普段から人々に目撃される事も多い神です。以前、バオールが海でオケアノスを見かけた時、オケアノスの後にイルカのような小さなオケアノスが着いて泳いでいるのを見ました。バオールはそれを見て、あれは海神オケアノスの子に違いないと思っていました。
バオールは海に出た後、オケアノスが現れるのを船上で待ち続けました。そして予想通り現れたオケアノスを息を潜めてやり過ごし、その後に着いていたオケアノスの子どもにモリを刺し、近くの海峡まで引っ張って行きました。やがて、子どもがいなくなったと気が付いたオケアノスは我が子を探して泳ぎ回ります。バオールによって海峡まで引かれていった子どものオケアノスは痛みと母を呼ぶ叫び声を上げます。その声に気が付いてオケアノスが海峡に突っ込むと、狭い海峡に挟まれたオケアノスは身動きが取れなくなってしまいました。そこに布袋を手に持ったバオールが現れ、オケアノスの目玉の前で布袋からメデューサの首を取り出し、オケアノスにメデューサの目を見せました。するとオケアノスの体はあっという間に石化し、海峡によって分断されていた大陸は陸続きになりました。メデューサの首は、以前にバオールが国王の令によって怪物退治に行った際に退治したメデューサの首を持ち帰った物でした。
近隣の大陸を陸続きにして、隣国との陸上の貿易ルートを開拓したいという考えは国王の長年の悲願であったことはバオールも知っていました。そして、それをバオールがたった一人でやって退けたという報告を受け国王は大いに喜び、バオールはこれによって軍の幹部に昇格を果たしました。
村の住民から王国軍の幹部が誕生したとなれば、村人達も大喜びで自分の帰りを待っていてくれるだろうと思い、意気揚々と村に帰ったバオールでしたが、村に入ると村人達はバオールを見るなり石を投げつけ、女達は泣き崩れたり、子ども達は家の中に逃げ隠れたりしました。
この村は先祖代々、神々を敬い、自然と共にひっそりと穏やかに暮らしてゆくことをモットーとしてきた平穏な村でした。私利私欲のために戦争で人を殺め、権力や地位を欲しがっているだけのように見えたバオールの存在を村人達はこれまでもあまり快く思っていなかったのです。そこにトドメを刺したのが、今回の神殺し。海神オケアノスはこの村の人達ばかりでなく、世界中の人々から愛され敬われていた穏やかで優しい海の守り神でした。それを殺して自らの地位を得た者など、村にとっては最早恥であり、怒りしか覚えない拒絶する以外無いような存在となっていました。バオールは、これまでただ一心に想ってきた故郷の村人達が、実は自分に対し敵意と憎悪しか感じていなかったと知り、悲しみと怒りが爆発します。バオールは怒りに身を任せ、手当たり次第に村人達を斬り殺していきます。
そんな中、突然バオールの姿が消えて無くなります。
あまりに凄惨な現場を見かねた神が、バオールを天上界に引き抜いたのでした。
バオールを天上界に引き上げた神はクロノス。クロノスはバオールが海神オケアノスを殺し、それによって地球の生態系に影響が出た事によって自然を司る女神ガイアも傷ついて病んでしまった事を受け、バオールの行動を天上から監視していたのでした。そこにきて、この殺戮ショー。もう、見るに耐えかねてバオールを自分が今幽閉されている無限地獄という空間にとワープさせたのでした。クロノスは時を司る神で、現在天界で強い権力を持っているゼウスやハデスといった主要な神々の父です。クロノスの持つ時を操る力があまりに強力なため、その力を恐れたゼウスら息子達がクロノスを無限地獄に幽閉し、自分たちが天界を支配しているという状態です。
クロノスの前で体の自由を奪われ、しばらく時間が経つとバオールは次第に冷静さを取り戻していゆきました。
そして、これまでの自分の行いを悔やみましたが、時既に遅く、クロノスはバオールに罰を与えます。クロノスはバオールに永遠の命を与え、この無限地獄で大きな岩を永遠に運び続けるだけという過酷で無意味な労働を永遠に続ける極刑の罰を与えました。
以上が、このストーリーの本編が始まる前日談で、最後のほうになって明かされる話です。
そして、このゲームの世界設定が少々複雑で、神というのは沢山存在していて、神の世界にも人間社会と似たような階級社会があったり、神は必ずしも人間の味方ではなかったり、ひねくれた考えを持った神もいたり、神同士の啀み合いがあったりという『神々の世界』という人間の世界とは別のもう一つの世界と、主人公達が進んでいる人間の世界とが、それぞれの思惑によって影響し合って同時に進んでいるという設定であり、それも終盤にならないと明かされないため、終盤までは不思議な事が度々起こるただのファンタジーRPGみたいな捉えられ方をされがちで、途中で飽きられてゲームをやめられてしまって、駄作として認知されたままになるパターンが多いと思います。
そしていよいよゲームが始まります。冒頭、小さな村で目を覚ました主人公の青年は、そこがどこなのか、自分は誰なのか、名前すらも憶えていない状態です。
いきなりネタバレですが、この青年はバオールです。
主人公がここに来るまでに、天上界では神々が集まって、とある話し合いをしていました。神々の世界を統治する王の座は常に流動的で曖昧なままの状態。何をもって次期の王を選出したら良いかを話し合った結果、今傷ついて病んでしまっている女神ガイアをより回復させられた神に次期王の座を約束しようという一つの回答が出ました。
そこで早速、幾多の神達がガイアの回復方法を模索し始めたのですが、その中でハデスという神は『人間がいなくなる事がガイアの回復に一番有効な手段』と考え、人間を全滅させる手段を考えます。そこで目を付けられたのが無限地獄にいたバオールでした。永遠の命を持ち、殺戮のノウハウも備えたバオールを筆頭に天界の使徒(魔物)を大量に地上に送り込んで人間を職滅しようと考えたハデスは、無限地獄からバオールを引き抜き、人間を皆殺しにすれば無限地獄から開放してやると言ってバオールを洗脳した上で大量の使徒と伴に地上に放ったのでした。
しかし、それはあまりにも手段が残忍過ぎると気が付いたゼウスが、バオールが地上に降り立つ前に神のいかずちを直撃させました。バオールは不死身のため神のいかずちをくらっても死ぬ事なく地上に到達してしまいましたが、落雷の衝撃とショックで記憶や自分の使命は全て吹っ飛んでしまいました。
バオールは地上に着いてしまいましたが、この時、ゼウスにある一つの考えが浮かびました。もし、人一倍強い正義感を元来持っているこのバオールという人間が、欲に染まらず正しい道を進んだなら、オケアノスの石化を解いてガイアの生態系を元通りに戻そうという意識に自ら目覚めて行動するだろうか?
そこでゼウスは一切の記憶を失ったバオールに、以前のバオールとは全く違う若者の肉体を与え、『主人公』として、全く新しい生き方をスタートさせて様子を見る事にしました。ただ、永遠の命という特殊な人間ではあるため、その力の正しい使い道を自覚して正しい道を歩む事の出来る人間かどうかを見てみようとしたのです。
ここがスタート地点です。
最初は何も分からない主人公ですが、スタート直後に事故によって大きな穴(崖下)に落ちてしまい、そこで自分が不死身だといきなり気が付きます。それで、とりあえず自分何者か、なぜ不死身なのかを思い出すために、その村から旅に出ます。
ここから終盤までは、ほぼ普通のRPGな展開。途中、やはり不死身の3人が仲間になります。そのうち2人はヘラクレスの子孫、オケアノスに仕えていた巫女で、バオールの次弾として、それぞれハデスによって永遠の命と人間撲滅の使命を受けるもやはりゼウスによって記憶を飛ばされています。そしてもう一人はバオールの息子で、何故か父の不死身の性質を受け継いで永遠の命となっており、神を殺し村人達をも襲った父親を探し出して殺すために旅を続けている青年です。
終盤までの旅の目的は、オケアノスの子どもを討伐する事になります。この時点でオケアノスの子どもはグレて暴れ回っており、人間を襲っています。体もかなり大きくなっています。そりゃそうでしょう、幼い頃にバオールにモリで突かれて重傷を負った上に囮に使われて目の前で母を石に変えられてしまっていますので。でも、過去の記憶が無い主人公にしてみれば、行く先々でオケアノスの子どもに襲われて困っている国の人達を見たら、その怪物を倒すのが筋と思ってしまう。やがて主人公達は旅で力を付けて、トロイ近海でオケアノスの子どもを撃退します。一般的なRPGの流れとしては順当な流れですし、初見でネタバレを知らないプレイヤーにとっても、人々を脅かす怪物オケアノスの子を倒す流れは自然な流れですが、この流れはゼウスがスタート以前に主人公に望んだ流れとは真逆の流れになっています。
ゼウスだけでなく、天界の神々達も主人公達の行動を監視し続けていましたが、このようにゼウスの意向とは逆の行動をとっている主人公達の動きに対して神々達も、そしてゼウスも『沈黙』をもって監視し続けていました。
神々の沈黙は、ガイアを救うゼウスの策略が失敗に終わったと冷笑するもの、ゼウスの慈悲を無碍にしている主人公達に失望するもの、様々ですが、ゼウスの策略が失敗すれば自分にも王の座を得るチャンスが廻ってくると思っている神が多いようです。
そんな中、ウラノスという一人の神が主人公達の並々ならぬ力に目を付けました。
ウラノスは、かつて地上に降りて人間界を支配しようと目論んだ支配欲を持った神で、その欲深い悪の意思を他の神々に見抜かれて天界を追放された神です。ウラノスは空を司る神ですが、人間界を支配しようとした罪により他の神々によって空を飛ぶ能力を封じられた上で地上にあった小さな孤島に幽閉される罰を受けていました。さらにウラノスが幽閉された孤島は、かつてウラノスの相棒でもあったアトラスという巨神によって天高く持ち上げられ、アトラスも罰としてそのまま石に変えられてしまったことで、飛べなくなったウラノスは天と地の狭間から出る事が出来ない、正に幽閉された状態にありました。
そんなウラノスが主人公達に天の声として『神の啓示』を下します。「ゴルゴン三姉妹の血を集め、アトラスの石化を解いて我を地上に降臨させよ」と。幽閉されているとはいえウラノスも神なので、これくらいの事は出来るようです。この時点でウラノスは、ガイアを回復させようとか次期王の座に就こうという考えは無く、ただ単にこの孤島から出たい、また地上に降りて人間界を支配したいという個人的な欲のためにだけに主人公達に声を掛けたという事が後々分かります。
オケアノスの子どもを撃退しても自らの不死の意味に全く辿り着けず途方に暮れていた主人公達は、突然聞こえてきた神の啓示を妄信してしまいます。過去の記憶の無い主人公達にとって、これが初めての神との遭遇であったため、ウラノスを唯一絶対の神と思ってしまうのは仕方がない事なのかもしれません。
ウラノスからの啓示を受け、主人公達はアトラスの石化解除を次なる目的として旅を再開します。そして、ゴルゴン三姉妹の血を集めて石化されているアトラスの元に向かいます。
ここからが所謂『最終盤』と言われるところで、良いシナリオであり難解なシナリオと言われる展開が始まります。
既に山と化しているアトラス山の山頂手前まで登った主人公達の前に、『バオール』という異様な怪物が立ち塞がります。その怪物は主人公達に攻撃してくること無くただ立っているだけだったので、主人公達はその怪物にひたすら攻撃を加えて撃退してアトラスの顔の部分まで登り詰めます。そしてゴルゴン三姉妹の三種の血を二つまでアトラスに振りかけ、最後の三種目をかけようとしたとき、ゼウスによって放たれた神のいかずちによって山の麓まで飛ばし落とされてしまいます。そして、その直後、ゼウスによって引き起こされた大洪水によって人類は滅亡します。ゼウスが主人公達に見切りをつけたのでした。
その後、気が付くと主人公は天上界に引き戻されていました。そして、神々の住む世界で過去の記憶を戻されながら沢山の神々から、失望のコメントやゼウスが託した思惑などを聞いて回ります。そしてゼウスに会います。しかし、ゼウスは沈黙して何も語りません。そして次にハデス会います。ハデスは怒っています。自分が王の座を得るための策略であったとはいえ、人間を職滅するという使命を忘れ、仲間として送り込んだ使徒を次々と殺して人間の味方になってしまった上に、ゼウスの慈悲にまで悉く失敗したとなれれば、もう許されるはずもありません。ハデスは、その場で主人公に猛攻を加えてきます。主人公は、なんとかその猛攻に耐え、ハデスも少しは気が済んで、主人公を再度無限地獄へと放り込んで溜め息を吐きました。
再び無限地獄に落ちた主人公は、クロノスと再会します。
クロノスは、ゼウスたち現行の神々が人類を滅ぼしてしまった事を大変に憂いていました。そして、ゼウスに気が付かれないよう過去に行って、過去の自分達を正しい道に導いてみる気はないかと主人公に問いかけます。
主人公は勿論、その作戦に乗ります。
しかし、クロノス時間を行き来する能力はあっても、万物の容姿を変化させるような能力は持っていません。今の主人公の姿は、地上に戻された時の姿ではなく、かつて無限地獄で岩を運び続けていた頃のバオールの姿に戻されてしまっていました。極限の環境下で不眠不休の極限の労働を続けてきたせいで肥大した全身の筋肉が皮膚を突き破り剥き出しになっており、瞼は退化して失われ、その容姿は当に怪物、しかも人間として会話をする声も失っていました。
それでも試してみたいという主人公の願いを受けて、クロノスは神の力で主人公をアトラス山の山頂に送りました。場所だけではなく、以前、主人公達がアトラス山に登った時間のアトラス山山頂です。
主人公がそこでしばらく待っていると、以前の自分達がやってきて、以前と同じように怪物と化した主人公に襲いかかってきます。
主人公は何もせず耐えて、必死に訴えかけ続けます。やがて、過去の主人公達も違和感に気が付き始めます。しかし、あと一歩のところで過去の主人公達一行がモタついている態度に業を煮やしたウラヌスが、主人公達に同行していた国王アルビオンに憑依して、アルビオンを操って怪物になった主人公に斬りかかろうとします。その時、過去の主人公達は怪物主人公をかばい、怪物主人公と共にアルビオンと戦い、アルビオンを撃退します。そして怪物主人公は役目を果たし、無限地獄に戻されました。
未来からクロノスによって干渉があった事にゼウスは気が付きませんでした。ウラヌスの思惑を妄信していた一行が、突然ウラヌスを裏切ってアトラスにゴルゴンの血を使わなかった、その真意が読めなかったゼウスは、その行動を注視し、試練としてこの三人に過去の記憶を返して様子をみる事にします。記憶を取り戻した三人は、それぞれ動揺します。記憶が戻っても主人公は、かつて巫女が仕えていたオケアノスを石にしたのは自分だと言い出せず、記憶が戻っていないと嘘をつきます。しかし、主人公達がそれぞれ今、何をすべきか、それはオケアノスの石化を解くことだと一致していたため、一行はオケアノスの石化している場所に向かいます。
しかし、そこにはアルビオン(=ウラノス)が待ち構えていました。ゴルゴン三姉妹は既に全員殺されているため、ゴルゴンの三種の血はもう二度と手に入らない。それをオケアノスに使われてしまっては、もう二度とアトラスの石化は解けず、ウラノスももう二度と天と地の狭間から抜け出せなくなってしまうためウラノスも必死です。
このアルビオン(ウラノス)がラスボスです。
ラスボス撃破後、オケアノスにゴルゴンの血を使って、オケアノスの石化を解いたらエンディングとなります。
エンディングではヘラクレスの子孫と巫女がくっついて、バオールの息子が主人公であるバオールを許そうとするのですが、主人公が「自分は無限地獄に戻って罰を受けたい」と言った瞬間消えてしまいます。この時間の主人公は過去の主人公であり、同時刻の主人公(アトラス山から戻ったバオール)は既に無限地獄のクロノスの下にいて、無限の罰を受けているからです。
過去の自分もそれを望んだというところに僅かな希望というか、無理やりやらされているわけではないという事で、僅かではあっても良かったのかととれる最後です。
シナリオは本当によく練られていて、一級だと思います。
前作までの主人公でゲームタイトルにもなっているヘラクレスも、ちゃんと前半から最後まで出てきます。パーティーに加わったり離脱したりを繰り返す弱いキャラですが。
この物語上のヘラクレスは、ゼウスに仕える弟子のような存在です。ヘラクレスは神と人間のハーフなので、前作までの大活躍をしていても天上界では未だ正式な神と認められていない様子で、ゼウス一派のクルーの一人に過ぎません。ただ、半分は人間の血が流れているため前作までと同様に人間の味方をしたがっています。しかし、自分の主人であるゼウスは、人間の行動次第では人間を絶滅させる事も辞さない考えを持っています。
ヘラクレスは、一歩間違えば人間が一掃されてしまうような主人公達の行動を正解に導きたいとゼウスに懇願しますが、ゼウスはそれを許しません。ゼウスは人間が自分達だけの判断力で正しい道を選択できる存在であるかどうかを見極めたいと思っています。
それでも主人公達(人間)を救いたいと懇願するヘラクレスにゼウスは一つの条件を出します。それは、ヘラクレスが地上に降りている間は神の力を無くし、主人公達に助言を呈さないという事。
正しい選択が何であるかを主人公達に先教せず、神の力で主人公の旅を助けず、あくまで見守るだけなら主人公達の傍に付いていても良いというものでした。それらゼウスの条件を受け入れてヘラクレスは地上に降りて主人公達に同行するため、今回のヘラクレスは弱いです。しかも、道中で度々ゼウスに雑用で呼び出されて、ちょこちょこパーティーを抜けます。
最後の最後に重要な手助けをしてくれるので、その辺りは、さすがタイトル主人公と思わせる演出もありますが、基本的には村の長老などと変わらないサポート役に徹しています。
シナリオ的には以上のようになります。
傑作と云われるような重厚なシナリオに反して、グラフィックはアニメっぽくなっており印象が軽く見えてしまっているのが残念。あと、絶対的にこのゲームの評価を下げてしまっているのは中盤の大半を占める異常気象の表現だと思います。ゲーム全般に渡って主人公達が物語を進める地上に対して、様々な神達が女神ガイアを救おうと様々な策を仕掛けてきます。その中の一つ『熱波』が問題で、ゲーム中盤の殆どが、この熱波によってフィールド画面も街中もグニャグニャユラユラと歪みます。まあ、表現としては間違っていないしSFCの性能あってこその出来た表現方法なのでしょうが、もの凄く見づらいし、画面酔いします。しかもそれが中盤、プレイヤーにしてみれば、その段階ではなんでそうなっているのか分からないまま、大半の時間画面がグニャグニャしていては、ハッキリ言ってプレー続行する気が無くなります。反面、その状態から開放された時の爽快感も凄いですが、これはちょっとやり過ぎだと思います。
シナリオは確かに一級品ですが、それを最後まで堪能するには結構な根気の必要なゲームです。
かなり良いゲームだと思いました。