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12 立ち位置

「なんでだよ、教えろよ」

「俺も正しいかどうかは分からんが、多分立ってる位置が違うからなんじゃねえかな」

「位置?」

「そうだ」


 トーヤがうなずく。


「神様ってのは多分人間より上の立場だ。それが頼まれて上から誰かを殺すってことはやっちゃいけねえんじゃねえかと思う。人間の運命を良くも悪くも変えてはいけないって決まりでもあるんだろうな」

「でも助けるのはいいんじゃねえの、助けられたらうれしいよ。誰かを殺すってのは悪いことだからだめだとしてもさ」

「さっき言ったことをもう忘れたのかよ、その殺すってのは誰かを助けるためだぞ?」

「あ、そうか」


 ベルが右手で左手の手のひらを叩く。


「つまりな、一緒なんだよ、助けるのも殺すのも。その相手は自分と同じ人間だ、良かろうが悪かろうが上からなんとかしてもらおうってのはやっちゃいけねえ」

「う~ん、そうなのかなあ……」


 まだベルが首を傾げる。


「さっきも言ったけどな、俺は自分が神様と懇意(こんい)な気がしちまってたんだよな。普通だったらねえことだよ、神様と話ができるなんざな。あの国に行って、なんかそういうのに慣れちまってた。特別扱いされるのを普通だと思っちまってたんだよ、自分も神様と同じ立場だとな」

「俺だってそう思うと思うぜ?」


 アランがトーヤに言う。そう言うことがトーヤの気持ちを楽にすることだと言うように。


「ありがとな」

 

 トーヤがその気持を汲むように笑って言った。


「だけどな、その気持ちが(おご)りなんだよ、傲慢(ごうまん)なんだよな。だから湖に近づけなかったんだと思う」

「おれ、おれ、やっぱり納得できねえ……トーヤがそのフェイって子を助けたいって気持ちがなんで驕りなんだよ……誰だって大事な誰かを助けたいもんじゃねえのかよ……」


 ベルが悔しそうに涙目になって言う。


「俺はマユリアに約束したんだよ、変えられない運命だと分かった時は諦めるってな。だが、それも結局嘘だ、俺は行きさえすりゃなんとかなる、そう思ってたんだよなあ」

「でも、でも、誰だってそう思うって……」


 ベルの目からポタリと一滴のしずくが膝の上に落ちた。


「おれだって、あの時、目の前で父さん母さんが殺された時、運命を変えられる何かがあったらそれを取りに走ってるよ。なかったから、なかったから黙って見ているしかなか……」


 そこではっと気がついた。


「そうだ、ないんだよ、普通はな」


 トーヤがベルに優しく笑いながらそう言った。


「だからそんなこと望んじゃいけなかったってこった、結論はな」

「でも、だったらそんなこと言わなきゃいいじゃん!」

「何をだよ」

「水、汲んできたら助かるかもって」

「ああ……それはな、まあ言わばマユリアのギリギリの好意だな」

「ギリギリのって?」

「マユリアにだってな、なんでもかんでも分かるわけじゃねえ、特に誰かの命の期限(きげん)なんてなもんはな」

「神様なのにか?」

「そうだ」


 トーヤがうなずく。


「マユリアが言ってた通りな、運命なんて誰にも分からん。だから、もしかしてまだまだ生きられる命のはずが、何かで運命を曲げられている場合はそれを正すことならできる、ってことだ。シャンタルにできるのもそれだけなんだ」 


 トーヤに言われてベルは思い出していた、さっきシャンタルが言ったことを。


「運命からはずれて本来なら起きなかったはずの悲しい出来事を止める、私にできたのはしょせんそれだけ」


 ベルの無言に()えるようにシャンタルがもう一度静かに言った。


「だからな、もしもそうなら、とマユリアは言った。それを確認するために湖に行けってことだったんだ。だが俺はそうは思いたくなかったんだよ、悲しい出来事だとしても俺には(くつがえ)すだけの力がある、そうできるって思って走ってたんだ」

「だとしてもひどいじゃねえか、だめならだめって言うのも優しさなんじゃねえのか?」

「あの時にな、だめだって言われても俺は引き下がらなかったろうな、認めなかった」


 トーヤがさびしそうに笑った。


「それで、結局はどうなったんだ? トーヤは、こうしてここにいるってことはその森から出られたってことだろ? でもフェイは? どうなったんだ? 運命はどうなってるか分かったのか? 運命をか、変える……んじゃなくて、正しく戻す、だったか? ややこしいな、もう……なんでもいいけど助かったのか?」


 ベルが(たた)み掛けるように言った。


「運命は変えられなかったが奇跡は起きた」

「え?」

「シャンタルの加護はあった、奇跡は起きたんだ……」


 トーヤがもう一度奇跡という言葉を口にした。

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