19 青いリボン
かくしてその夜もまた、ダルが下賜された馬を理由に宴席が設けられた。
「いやあ本当にめでたい。まさかダルがなあ、こんな名誉なことになるとはなあ」
ダルの父親、村長の息子のサディがしこたま酒を飲みながら赤い顔で何度もそう言った。
「だから親父、おれの手柄じゃねえんだよ。トーヤの友達んなったから、そんでだからな」
「分かった分かった、なんにしてもめでてえことだ、なあ」
バンバンとダルの背中を叩きながらまた「かんぱ~い!」とカップを高く掲げ、それに村人たちも「かんぱ~い!」と応える。
「分かってねえじゃねえかよ……」
「まあまあ、いいじゃねえかよ」
トーヤが笑いながらやはりダルの背中をバンバンと叩く。
「いってえな~」
「かんぱ~い!」
トーヤがジュースが入ったカップを高く掲げて言うとまたみんなが「かんぱ~い!」と続ける。いつまでたっても終わりそうにない。
その光景をハラハラしながら見ている者がいた。フェイである。
前夜、トーヤが間違えて(とフェイは思っている)ダルのカップに入った酒を飲んでしまったことを思い出し、また間違えないかと心配でたまらないのだ。
ミーヤが横でその姿を見て、こちらはこちらでフェイが気にかかる。
「フェイ、大丈夫ですよ、今日は間違えないようにとトーヤ様のカップには取っ手がついているでしょう?」
「ですが……」
間違えないようにと1人だけ取っ手付きのカップを用意してもらっているのだが、うっかりいうこともある。特に周囲があれだけ大盛りあがりしているのだ、どんなはずみでまた、ということもある。
フェイはトーヤの動き、周囲の酔っぱらいたちの動きに目をキョロキョロさせていたが、やがて意を決したように立ち上がった。
トーヤに近寄ると、髪を縛っていた青いリボンを解き、無言でトーヤのカップを取り上げてその取っ手にくるくると巻きつけリボン結びにした。
「これで間違えませんよね?」
トーヤは目をパチクリしていたが、フェイの意図を知るとフェイを抱き上げて大声で言った。
「間違えねえよーさっすが俺の第1夫人だな、ちび、いや、フェイ、おまえはいい女房だな!」
フェイを持ち上げるとくるくる回り、周囲もどっと囃し立てた。
「なんだよ、フェイちゃんかわいいと思ってたのにトーヤの唾つきかよ~残念だなー」
「おい、手を出すなよ、大事な奥方様だ」
「そう言われてもな、フェイちゃん、そんな酒も飲めねえような半人前捨てて、俺の息子の嫁さんにならねえか?」
「だめだって、なあフェイ?」
全員から注目されてフェイは赤い顔をして下を向いた、また涙が浮かんできた。
「わわっ、だから泣くなってーまた俺が怒られるじゃねえかよー」
「泣くほどトーヤが嫌だってよー」
また周囲がどっと沸く。
「泣いてません!」
「そっかーそんじゃなんだろうな、雨か?」
トーヤはそう言って笑いながらフェイを降ろし、頭をヨシヨシと優しく撫でた。
そうして腰を下ろすと膝の上にフェイを乗せた。
「青い結界だからな、これでもうこのカップには誰も触らせねえぞ? 悪さして酒入れてやろうなんてやつには天罰だ!」
「おお~こええ~」
「まったくだ」
また周囲がどっと笑う。
「ほれ、おまえもカップ持って、乾杯だ」
「は、はい……乾杯……」
トーヤがフェイのカップに自分のカップを当てる。木と木が当たる鈍い音がした。
「いよお、いいぞご両人!」
「みんなも乾杯だ!」
「おお、かんぱ~い!」
あっちこっちでカップとカップが当たる音がして一層盛り上がり夜は更けていった。
フェイの人生で最高の夜だった。




